2016年1月24日 うつこと かんがえること
今日は札幌新川そばの会への参戦、5回目です。2回目以降は、会長が親身になってそば打ちを教えて下さいっています。一番最初に教えていただいた、江戸流のそばを打つ手順にそって打つという作業を2回目以降は、行っていません。四つ出しをせずに、のしながら4角に成形するような、江戸流のそば打ちではなく、それぞれの作業で重要なことを教えて下さっています。
そば粉を篩い、1回目の加水を行い、「パン粉状態」と言い聞かせながら、粉と水を分散させようとしている時でした。
突然、会長曰く、
「湿式粉砕って、知ってるか?」
と問われました。
私の内語
「きた ~~~~!!!」
「湿式??」「粉砕??」
「工学部卒ではないし、分かりません。」
と驚きの声。
私の外語
「いえ、知りません。」
「湿式粉砕ってなんですか?」
会長曰く、
「調べてみてよ。」
「急がないので。」
今朝は、工学系の質問を貰い、また頭の中は右往左往です。
この質問が、その後のそばに関する勉強の始まりでした。まんまと、会長の術中にはまってしまったと、今になって思うわけです。私の中で、決して忘れることは無いだろう、「湿式粉砕」です。
「湿式粉砕」というお題を頂戴し、まずはネットで調べました。湿式粉砕自体は、食品を扱う領域で良く聞く言葉のようで、粉をより細かくする方法の一つでした。玄米からGABAを造る方法や、玄米ミルクを作る際に、個体を最大限細かく粉砕する方法で、固形物を粉に磨り潰す工程で、乾燥状態ではなく、湿気があることで粉砕しやすくし、より細かく粉砕できるという手法です。
そばとの関連は、石臼でのそば粉造りに関わります。石臼によるそば粉の粉砕が湿式粉砕研究の基になっています。石臼挽きを応用して、より細かい物質へ粉砕するために湿式での粉砕が考えられたということです。具体例として筑波大学では、「改良型電動石臼を用いた湿式粉砕装置」が作られたとの報告がありました(2014 北村豊)。
うどん打ちの手順で、個体に液体を用いて混ぜるという手順を応用して、コンクリートミキサーを開発したのが、前田又兵衛という方です(1999 前田又兵衛他)。コンクリートミキサーは、以前は工事現場で良く見かけた、グルグル回る部分を有するトラックです。最近はコンクリートミキサー車が工事現場に現れ、コンクリートを流し込むという作業は少なくなりました。コンクリートの成形は、現場ではなく別の場所で行い、出来上がったものを現場に持ち込むためだと思います。コンクリートミキサーは日本人の開発したものだったのです。その基になったのは、うどんを打つ際の水と粉とを均一に混合する方法を、コンクリートの混合作業に応用したものでした。色々な個体を混ぜるために、液体を用いて、何でも均一に混ぜてしまう方法です。
そばの水回しは、そばの粉と水を均一に混ぜる作業です。これは、うどん打ちで小麦粉と水を混ぜ合わせる工程と同一です。そば粉と水を均一に混ぜることが、その後の作業に影響し、蕎麦のでき、最終的には蕎麦の味にまで影響します。そば打ちで、最も重要な作業は、水回しだというご意見の方が居られます(1999 大西利光他)。固体であるそば粉を、液体である水に均一に混ぜ合わせるには、どんな方法が良いのかということを考える際の理論として、湿式粉砕という考え方が重要になります。これは、うどん打ちからコンクリートミキサーが開発された経路と全く逆の経緯を考えるということです。そば粉と水をどのように加えて、混ぜるとより均一なそば粉の塊に成形できるかということを考えるために、湿式粉砕という方法を検討してみると言うことになります。
均一にそば粉と水を混ぜ合わせるには、コンクリートミキサーのように均一にかき混ぜるということです。均一にかき混ぜるには、混ざっていない部分をなくすと言うことに他なりません。そば粉のひと粒一粒が均一に動くように混ぜ合わせることが、必要条件であるという結論に至ります。
均一にそば粉と水を混ぜ合わせるには、コンクリートミキサーのように均一にかき混ぜるということです。均一にかき混ぜるには、混ざっていない部分をなくすと言うことに他なりません。そば粉のひと粒一粒が均一に動くように混ぜ合わせることが、必要条件であるという結論に至ります。
そのように理解できた途端に、先輩諸氏やWebでの名人による水回しの際の手の動きが理解できるようになりました。同じ水回しでも、最初に加水した際の指の立て方と手の動きと、2回目の加水後の手の使い方は異なることが分かってきました。
そばを打つという作業は、結構科学的に理解していくことができるのだ、と思った瞬間でした。この事件が私に、そば打ちの手順や技法には、理由があり、その理由は科学的に論じられそうだというところが面白いと感じさせました。会長の問いは、いつも突然で面喰いますが、面白く、何かを考えさせて下さることが多いようです。
そばを打つということの、それぞれの作業の意味合いを考える時、しっかりと裏付けとなる理論が存在するのではないかと思います。そのような視点でそば打ちを考えることは、大変興味深いと考えています。再現性のある言葉で、表現できるようになると、一層面白くなると思います。「そばとわたし」は、そば打ちを科学するという視点で捉えて記述していければと思っていますが、私の理解の範囲ですので、限界がありそうです。
さて、湿式粉砕の問いを受けて、この日もそば打ちを会長のペースで終了しました。札幌新川そばの会でのそば打ちで、「2回目以降四つだしをしたことがないので、大丈夫なのかな。」と少し不安に成りだしました。
この日の私が打った生粉打ち蕎麦も、私には美味しかった・・・です。
(参考文献)
2014 北村豊 マイクロウエットミリングによる機能性食品の開発〈改良型電動石臼を用いた湿式粉砕装置〉 筑波大学生命環境系 (2016年1月16日確認 http://shingi.jst.go.jp/abst/p/14/1419/tsukuba03.pdf)
1999 前田又兵衛他 うどん練りの発想による連続練りミキサの開発 セメントコンクリート 628, 20-27, 1999-06-10 セメント協会
1999 大西利光他 そば打ちの美学
川辺書林
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