2015年5月17日午前9時、札幌新川そばの会のそば打ち台の前に立つ、私が居ました。前の週にメールで参加のお願いをし、参加の日が来たのです。札幌新川そばの会は、大きな金物屋さんの2階に教室があります。階段を登ると、数名の方が居られました。最初にメールした、事務局長のH氏にコンタクトし、進め方の簡単なレクチャーを頂き、さっそくそばを打つことになりました。K氏が私について教えてくださることになり、そば打ち開始です。最初に、篩の使い方を教えていただき、粉を篩でふるう作業を行うと、そばの香りがします。このそばの香り、美味しそうと感じました。
そばを打ってみようと考えた理由は、美味しいそばを食べたいからでした。学生時代から日本国中を旅して、会社に入ってからも、国内外と様々なところへ行く機会をたくさん得ました。お蔭さまで、日本の都道府県で行ったことがないところは、無くなりました。
同時に、食べることも好きで、旅先ではその地の食材や料理を頂くようにしてきました。B級グルメ店から一流店まで色々と食べ歩きました。その中でも、機会があればまた行ってみたいと思う店は、鹿児島市の「とんかつ丸一」、大阪石橋の居酒屋「とり竹」、京都では「京料理なかむら」、東京では多々ありますが、その中で突出しているのは「麤皮」、「ジョエルロブション」や「シェ松尾」、隠れ家では「麻布久太郎・田能久」、イタリアンでは山形県鶴岡市の「アルケッチャーノ」、ラーメンでは秋田県能代市の「十八番」、鰻は酒田市の「玉勘」、地元札幌では「モリエール」、北海道まで広げると釧路市のカニ料理「絹」等。
そんな中、そばは好きな食材でしたので、そばが有名な地では、美味しいと言われるそば屋さんへ訪れることが多かった。当時訪れた料理店やそば屋では、食べることが主で、それを記録したり、比べたりすることは、ありませんでした。残念ながら、そばに関して、美味しいと思えるそば屋さんに出会うことは少なかったです。
東京の老舗のそば店は、ほとんどがつなぎに小麦粉を使用しています。小麦粉を使用すると、喉越しがザラットからツルットに変わりますが、味や香りはそば粉より小麦粉が有意になり、そばの味と香りが殺されます。そこで、十割のそばを求めて、行く先々でそばを求めていました。残何ながら、十割でそばを提供してくれるお店は、余りありませんでした。良い事例として、山形県大石田地区は、最上川そば街道の一地区で、ここに14~5店のそば屋さんがあります。この中で、十割そばを提供してくれるのは2店舗のみというのが現状です。
長野県の松本市もそば処ですので、多くのそば屋さんがあります。この中で一押しと言われるお店での経験は、残念の極みとなりました。このお店には、松本に訪れる度に訪れましたが、なかなか時間が合わずに入れずにいたお店でした。4、5回目に、同店に訪れた時だと思いますので、その店が一番という情報を得てから、2年ほど経った時に初めて時間が合い、入ることができました。お客さんは私の他に2組でした。勿論、もりそばを二枚お願いしました。出てきたそばは、非常に細いそばで、良くここまで細く仕上げたなと感心しました。これで美味しければ言うことないのですが、残念ながら、茹ですぎで麺の角はなくふにゃふにゃしています。また、麺が細すぎて水切れが悪く麺と麺の間にたくさんの水を含んでいます。麺をつまむと水を一緒に持ち上げるほどでした。隣のお客さんは二人ずれで、これを美味しいと言いながら食べていました。私は、私のそばだけ茹ですぎたのかなと思い、隣のお客さんのそばを見ましたが、同じようなそばです。ネットや書評で、有名と言われるそば処のそばです。それ以来、美味しいそばを探すのを止めました。これなら、東京八重洲口から程遠くない、立ち食いそば店の天ぷらそばのほうが美味しいですし、わざわざ探す必要もないと思ったからです。
この出来事以降、数年間美味しいそばを求めない期間がありました。その後、東京から札幌に居を移し、いくつかのそばが美味しいというお店に訪れてそばをいただくようになりました。北海道でも、二八そばが主流なのか、どのお店もツルットした、小麦粉の香りと味が前に出る二八そばを提供しています。
これはやむを得ないのかもしれません。日本全国のそば店を俯瞰してみる(診る)と、最も人気があると言われる翁達磨の高橋さんのお店やそのお弟子さんの店は、二八そばを美味しく提供しています。ここに現在のそば好きのお客さんが押し寄せるということは、そば好きの人たちも、二八そばが美味しいと思い込んでいるというのが現実です。そばを提供する側は、十割では店を回すのが難しい(1995堀田平七郎)ので、ギリギリのところでつなぎを加えて、より多くの人が同じようにそばを美味しく頂けるようにするための工夫した帰結として二八でそばを提供する(1997 阿部孝雄)という結論に達したのだと推察します。これに多くのお店が追随しているのではないでしょうか。
これに反して、ニューウェーブ(2007 大野よし郎)と言われるそば店の人たちは、より美味しいそばを求めて研究し、独自のソバの扱いを開発しています。二八に慣らされたそば好きのヒトが、これらのお店を訪れて、パラダイムシフトを起こしているのが現状ではないでしょうか。パラダイムシフトを起こしたヒトたち曰く、「こんな美味しいそばがあったのか?」です。その後、同じようなそば店を開業された方も居られるようです(2010太野よし郎)。
このようなそばの流れを作ってこられた方々に頑張って欲しいものです。私は、札幌に居を移した後、十割で美味しいそばを求めて、各地のそば店や、帯広、幌加内のソバ産地に出かけました。そんなそば店、ソバ産地巡りをして、「美味しいそばを探すくらいなら、いっそのこと自分で打てるようになれば美味しいそばが食べられるかもしれない。」と思い、そば打ちを学ぼうと考えたのです。そば打ちを学ぶ動機は、美味しいそばを食べるためでした。
今、目の前に美味しそうな香りのそば粉があります。さて、この粉を美味しい蕎麦の麺にすることができるや否や。
(参考文献)
2007 太野よし郎 蕎麦曼荼羅 展望社
2010 太野よし郎 蕎麦手帳 東京書籍
1995 堀田平七郎 江戸そば一筋 並木薮蕎麦そば遺文 柴田書店
1997 阿部孝雄 竹やぶの蕎麦 三水社
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