札幌そば研究センター

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2017年5月28日日曜日

そばとわたし(10) そば打ち記録(66) そばの細さ 四つだしとストレス 水回し再考

そば打ちの実践中に気づいたことも、「そばとわたし」として保存していきます。
よって、そば打ち記録(66)はそばとわたし(10)との併設です。

2017年5月27日(土)
気温:18度
天候:雨

今日は、1.5kgにて友人に差し上げるための生粉打と、同様の目的で福島県山都地区宮古のそば店「大下さん」で分けていただいた、玄そばの全粒粉の60メッシュ篩のそば粉を湯ごねで打ち、最後は、上砂川生粉打そば打ち名人戦のそば粉に再々チャレンジです。

1回目
そば粉:札幌新川そばの会のそば粉(キタワセ)1.5kg
加水量:640ml
最初の加水で600ml加え、その後に20mlを2回に分けて加水。
水の量は問題ない。大変打ちやすい粉なので全く問題なく作業は進み、1.5kgはそば切りに変身でした。そばの厚さは1.4mmで目指した厚さになりました。

【そばの細さ】
札幌新川そばの会の皆さんは、もう少し細いそばを好みます。翁の高橋名人は二八そばで1.2mmが理想として、そのサイズのそばを提供しています。
私は、最近、生粉打そばを1.2mmで食すと、食感を感じにくいのではないかという考えになってきています。理由は、二八であれば1.2mmでもその噛み応えがありますし、そばののど越しもちょど良いと感じます。しかし、生粉打の1.2mmは、その噛み応えが足りないし、のど越しものどを通る際の刺激が物足りないのではないかと感じてきています。まだまだ、試行錯誤の段階ですが、他の方に差し上げるそばですので、あまり細すぎず生粉打の良さを知ってもらうためにも、1.4mm前後でチャレンジしました。超えても1.5位ですので問題は無いと。

2回目
そば粉:福島県喜多方市山都地区宮古のそば店「大下さん」で分けていただいた、玄そばの全粒粉の60メッシュ篩のそば粉

先日大下さんに訪問した際に、そば打ちを見せていただきました(別のブログにて報告済み)。湯ごねでないと、このそば粉はつながらないとおっしゃっていました。私自身は、前回訪問時に分けていただいたそば粉を、水でつなごうとチャレンジしましたが、うまく打つことができませんでした。やはり、湯を用いてそばのデンプンをアルファ化してつなぐ方法が、このそば粉には良いのだと思います。

【四つだしとストレス】
大下さんの教えの通りに、約50%の熱湯を加えて、種になる水を少しずつ加えて塊にし、まとめてそば球に。大下さんでは、これを5個くらいに分けて、1つずつを丸のしして、それを数枚重ねて切ります。
今日は、丸のしではなく江戸流で丸のし、四つだしと進めてみました。丸のしは問題ありませんが、四つだしを試みると、麵体に細かなひび割れが出てきます。これは、四つだしによる麵を伸ばす力が加わることで起こる現象です。四つだしはそこそこで止めて、そこからは普通にのして形を少し整えました。厚さ優先で形はどうでも良いと切りかえ、回しのしで引っ張らずに圧だけを少しずつかけてのしました。

出来上がったそばは、ボロボロに切れるそばではありませんが、四つだしで傷つけたところは切れやすいようです。大下さんで見せていただいたそばのように、しっかりつながったままのそばとはなりませんでした。やはり、圧のみで平らにしていく方法が、もっともストレスをかけずにのす方法だと、再認識しました。

3回目
そば粉:上砂川生粉打名人戦の練習粉1.5kg
加水量:870ml
数回チェレンジしましたが、またまたチャレンジです。
今日は、参謀にK先輩が隣で見てくださっています。最初に、粉を握り「これは、相当水が入るよ。」「ゆっくり水を加えていかないと、失敗する。」「札幌新川そばの会のそば粉のように水分量が高くないし、ドラムで挽いているかもしれないの、大変むつかしいよ。」ということで、そば打ち開始でした。

最初の加水は、700ml一気に加えて水回しです。2日目で100ml加え、まだまだ入るという先輩の助言により、20ml位ずつ数回加えました。ここまで、水を入れられたことが初めてでした。

【改めて、水回し再考】
これまでの失敗の時の水回しと今日の違いは、加水後に水を出すように圧を一切かけないということでした。圧をかけると粉に入った水が表面に出てきてテリが出てきます。これにより粉がまとまり易くなります。これにより時間を短縮して水回しができます。これを用いてはいけないのかもしれません。じっくりと、ゆっくりと水が粉に浸透するのを待つ。そのためには、加水直後のように相当長い時間をかけて、サラサラ状の粉の状態を維持したまま、水を加えて行く。そうしないと、水が回っていかないのかもしれません。そんな、思いに行きついた今日の水回しでした。

「こんなに、トロトロでよいのですか?」とK先輩に尋ねると、「あと、10ml水を加えても良かったかもしれない?!」とのことでした。5段用の生粉打ち粉もこんな粉のようだということでした。K先輩曰く「じっくり水回しをして、そこからは、細心の注意を払わないとそばが出来上がらない。」「少しでも、気を抜くとトロトロの麵体が仇となり、麵が切れたり、破れたり、できたと思ったら途端に麵をたたむ際に切れたり、打ち粉が足りないとくっついたりだ。」「こんな粉で、生粉打で練習していると、二八は楽になる。」とのことでした。K先輩、アドバイスありがとうございました。少しだけ、水回しの方法が見えてきたかもしれません。

2016年4月5日火曜日

そばとわたし(9) でんぷんとたんぱく (そば打ち語録)

でんぷんとたんぱく 

 今日は、久々のそば打ちで札幌新川そばの会に伺いました。2週間ほど空いたので、久しぶりという感じです。札幌新川そばの会では、1月を除く月の第2から第4土曜日に開催されます。よって、前月の最終回から翌月の初回の間は2週間空きます。
 今日も、札幌新川そばの会のそば粉を篩にかけ、いざ水回しと言うときでした。


 会長曰く、
 「二八はグルテン、生粉打ちは別のタンパクなんだよね。」

 私曰く、
 「は??」


 会長曰く、
 「そばという植物のでんぷんとたんぱくの組成を知らないと、
  良い蕎麦は打てないよ。」

 私曰く、
 「でんぷんとたんぱくですか?」
 「たしか、そばはグルテンをふくまないですよね?」



そばとうどんの違いはと言われると、そばという植物と小麦という植物からつくられるということで、そもそも素材が違うということになる。この二つの植物の違いは何かというと、ソバと小麦に含まれる組成が異なるという、当たり前の結論になる。では、その組成のどこに違いがある故に、蕎麦麺と饂飩麺に違いが生じるのかということには、異なるという認識はあるものの、その具体的な違いには思い及ばなかったというのがこれまでの私であった。この件が、蕎麦と饂飩、ソバという植物と小麦という植物の違いについて考えるきっかけであった。
 

  ソバと小麦の玄穀同士をビタミン量で比較すると、玄そばと小麦の玄穀では、大きな違いはありません。小麦の玄穀には穀物としては比較的多くのビタミンが含まれます。しかし、その大部分は皮や胚芽の部分に偏在しており、胚乳部の中心に向かうほど少なくなります。小麦胚芽は栄養価が高く、これを基にしてビタミンEを製造されるほどですが、それらの栄養素は胚乳の粉である小麦粉には含まれません。

胚乳の中心部にはでんぷんが多く含まれ、粒の周辺部に近づくにつれて他の栄養成分が多くなるのは小麦ばかりでなく、ソバや米など穀類全般に共通した性質です。しかし、小麦とソバでは、使用する部分が大きく異なります。小麦とソバは製粉され、お互いに最も良いとされる紛体を取り出して使用されます。この過程で含まれるビタミン等の含有が異なってきます。これは、ビタミンだけでなく部位に局在する物質において同様なことが起こります。

では最初に、小麦について考えてみます。小麦粉にはいくつかの種類があり、それぞれ栄養成分の組成も違います。
小麦粉は、次の二つの組み合わせで区分され、「強力一等粉」、「薄力三等粉」という呼び方になります。
A)種類別分類:強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム・セモリナ
B)等級別分類:特等粉、一等粉、二等粉、三等粉、末粉
 強力粉・薄力粉などの種類別分類は、含まれているたんぱく質の量によって決まります。
  たんぱく量が、強力粉が12.514%、準強力粉が1012.5%、中力粉が810%、薄力粉が68%です。

 一方、等級別分類は、カリウムやリン、カルシウムなどの灰分(ミネラル)の含有量によって決まります。これらミネラルは、小麦粒の皮および粒の周辺部に集中し、胚乳部の中心にいくほど少なくなります。灰分が多いということは、胚乳の周辺部まで挽き込んだことになりますから、でんぷんの純度の高い中心部を粉にした製品に比べてグレードが劣る、という意味になります。沢山ミネラルを含むことは小麦粉にとってはグレードが下がるということです。このため、小麦粉の製粉の狙いは、胚乳部だけをいかに純粋に粉にするかにかかってきます。

小麦粉の性質は、原料小麦の品種や産地、作柄などによっても左右されます。よって、たんぱく質と灰分の量の違いだけでは最終的な判断ができませんので注意が必要です。
小麦粉を使用して饂飩を作る際にどのような小麦粉が良いのでしょうか。作ろうとするうどんによっても条件が変わってくるため一概にはいえませんが、一般に、うどん作りに通した小麦粉は、たんぱく質含有量が810%の範囲内で、グルテンの性質があまり硬すぎず、適度な柔らかさと切れにくい伸展性を持つもの、とされています。先の分類によれば、中力粉の一~二等粉が向いているということでしょうか。

そば粉の製粉のポイントは、でんぷんを中心成分とする胚乳部に、胚芽や甘皮部分、場合によっては殻の一部分までを、どれくらいの割合で配合するかということです。その配合比率によってそば粉の風味や色が決まり、挽きぐるみ、一番粉、二番粉、三番粉と分類されます。
 そば粉のたんぱく質含有量は、一番粉(内層粉)が6%、二番粉(中層粉)が10.2%、三番粉(外層粉)は15%です。この数字は、小麦粉の種類別分類(強力粉・準強力粉、中力粉、薄力粉)とほぼ対応していますが、たんぱく質の栄養価には大きな違いがあります。

たんぱく質の栄養価は、必須アミノ酸の種類と量が、人体の要求するアミノ酸組成に近いかどうかで評価されます。人間の体は、このアミノ酸バランスがとれていないと、食品中のたんぱく質を効率よく吸収・活用することができません。
 そば粉のたんぱく質のアミノ酸組成の最大の特徴は、穀類のたんぱく質では不足しがちな必須アミノ酸であるリジンの含有量が多いことです。「日本食品アミノ酸組成表(日本食品標準成分表2015年版(七訂) アミノ酸成分表編)」によれば、そば粉(挽きぐるみ)のリジン含量は100g当たり700mgです。それに対して、小麦粉(中力一等粉)は220mg、強力一等粉でも270mgしかありません。
 一般に、たんぱく質の栄養価は、アミノ酸スコアで表わされますが、小麦粉の中でも最も高い薄力一等粉で44(中力一等粉は41)、白米が65に対して、そば粉は二番粉が90、挽きぐるみでは92にもなります。そば粉のたんぱく質は、大豆の86をも上回る優れたアミノ酸バランスを持っています。しかも、リジンの含有量は、そば粉の品質にほとんど影響されません。
 
話しを小麦とソバの製粉の違いに戻します。そば粉と小麦粉の製粉目的の違いを栄養面から見れば、そば粉の製粉は小麦粉の場合に比べて、栄養素の豊富な部分(胚芽や種皮部分)を製粉工程で失うことが少ないということになります。もちろん、ソバと小麦は別種の穀物であり、製粉する前の玄穀の段階での成分組成に違いがありますが、これに加えて製粉目的の違いがさらに、両者の栄養成分の違いを増幅しています。
 
  そば粉と小麦粉では、たんぱく質の栄養価だけでなく、たんぱく質の性質も違います。小麦粉は水を加えてこねると、粘りと弾力性のある塊にまとまります。この生地を多量の水にさらしてでんぷん粒やその他の水に溶ける成分を洗い流すと、餅のように粘弾性の強い塊状のものが残ります。これがグルテンで、これを食用に加工したものが生麩です。
生麩がグルテンの塊だったのですね。

現在は、グルテンフリーという食文化も出てきています。特にアメリカではこの食文化が進んでいるようです。グルテンフリー文化の発祥は、小麦等に含まれるグルテンのアレルギー反応が話題になったことです。その後、ダイエットとの関連まで話題が広がっています。ソバアレルギーの方も居られるので、グルテンもソバもアレルギーを引き起こす抗原になるということで、この点では両者は同様に注意をする必要があります。グルテンフリーとダイエットに関する科学的根拠が何処まで正しいのかについては、皆さまにお任せしますので、ここでは踏み込みません。ただ、生麩はグルテンフリーの方には大敵ですね。

一方、そば粉には小麦粉のようなグルテンはありません。そば粉の水溶性たんぱく質は水に溶けると粘りを生じるので、その力だけでそば粉をつなぐことができます。ただし、グルテンの綱目構造のような強い麺帯形成力にはなりません。生粉打ちがつながりにくいと言われる原点です。

  そば粉がグルテンのような網目構造を構成する物質が無くてもつながる理由は、上述のような水溶性たんぱく質による粘性の他に、水溶性の多糖による粘性があると言われています(1991 大日方洋他)。この両者による粘性がそば粉をつなげる力になります。ただし、両者ともに緩い結合を引き起こすだけですので、その結合力は饂飩のようではありません。
 
  この緩やかな結合は、その食感にも影響していると筆者は考えています。饂飩と生粉打ちそばの切れやすさは、口に含んだ際の食感に直結します。グルテンを含んだ食物は、噛むという作業をすることでその旨味が表出します。饂飩は噛まないと、小麦の美味しさを感じません。讃岐饂飩は良く噛んで小麦の旨味を感じて食します。また、そうめんは噛まずにグルテンが繋いだ小麦をスルーッと喉に通すことで、喉越し感覚を楽しみます。生粉打ちの蕎麦は、歯を用いて良く噛まなくても旨味を感じます。口に放り込むと勝手に麺が切れます。その際にそばの旨味を感じます。生粉打ちでなく、つなぎに小麦を使用した蕎麦麺は勝手に切れないので、讃岐饂飩のように噛んで楽しむか、そうめんのように喉越しだけを楽しむかということになります。ただし、グルテンを含んだ麺ののど越しと、グルテンを含まない生粉打ち蕎麦の喉越しは異なります。生粉打ちが良いのか、二八が良いのかという議論はまた別の機会に任せ、ここではこれ以上触れないことにします。しかし、この議論において、グルテンの存在とその食感への影響は、重要なポイントになります。
 
ミネラルは、小麦粉にはほとんど含まれていません。これは、小麦粉だけでなく米などの穀類にはミネラルはあまり含まれていません。ミネラルが豊富なそば粉は、穀物中の例外です。

 さてさて、でんぷんとたんぱくを理解し、その組成を考慮しながらそばを打つというのは、この事件後1年ほど経過してからだったと思います。
そば粉の成分は分からないけど、この日のそばも無事につながり、その晩から数日は、美味しいそばをいただきました。


(参考文献)
ソバと小麦の成分日本食品標準成分表2015年版(七訂)参照
(文科省ホームページ;http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365297.htm)  

日本食品標準成分表2015年版(七訂) アミノ酸成分表編
(文科省ホームページ;http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365450.htm


1991 大日方洋他 そば粉に含まれる水溶性粘質物の特性について 日本食品工業学会誌 Vol. 38 (1991) No. 5 P 391-397 

2016年2月24日水曜日

そばとわたし(8) たまに、たまみろ   てうごかし、こなうごかず (そば打ち語録)

たまに、たまみろ てうごかし、こなうごかず

 今日も、札幌新川そばの会でそば打ちです。
  6月の暑い日です。まだ、夏は先ですが暑い朝でした。
 そば打ちの手順は覚え、流れでそばを打つことができるようになった頃でした。水回しが終わり、まとめに入り、いざこねはじめたときでした。

  会長曰く、
   「この玉貸してごらん。」
  会長、おもむろにそばの塊を包丁で真っ二つに。
  会長曰く、
   「あーーあ。これだもんな!!」
  私は、唖然、茫然。
  私曰く、
   「何が・・・。ですか・・。」
  会長曰く、
   「これ、見てごらん。」
   「混ざってないでしょう。」
  見せられたそばの塊を見て、私曰く、
   「白いところがありますね。」
  会長曰く、
   「これで、水回しが分かるね。」

 会長の、この突然の行動にビックリしていましたが、その趣旨がようやく理解でき、少し正気に戻りました。すると、隣のうち台に移動していき、隣の方のそばの塊を取り上げて、同じように真っ二つに切り裂きました。その切り口を、私のところへ持ってきて、

  会長曰く、
   「これを見なさい。」
   「このくらいに水が回らないと。」
  私曰く、
   「はい、本当に違いますね。」
  隣の先輩曰く、
   「・・・・!!!」
 
 私のそばの塊を取り上げて、見せてくれたまでは良いのですが、隣の先輩はいい迷惑です。突然のことで、隣の先輩は、会長のなすがままに何の抵抗もなく応じるほかなかったのだと思います。私にしてみればありがたいことで、水回しの状況が、こんなに違うのだということを確認できました。隣の先輩は、作業を止められ、そばの塊を寸断されたので、いい迷惑です。私は、隣の先輩にお礼を言いました。

 確かに、水回しがしっかりできていない状態でまとめに入ると、このような玉の状態になるのだと思われます。
 水回しの際の加水に関しては、前回の「いっきかすい」にて延べたとおりです。
 この日の水回しの問題は、私自身は、鉢の中で、一所懸命に粉と水をかき混ぜ、均一にと思ってかき混ぜているわけですが、どこに問題があるのか分からないということでした。

 篩ったそば粉に、水を加え、均一になれと思いながら混ぜているのです。それも、自身では結構早くかき混ぜているつもりです。手は、動いているけど、粉と水が混ざらないといいう状況がなぜ起こるのでしょうか。

   私いわく、
    「会長、手を動かしているのに、何故なんでしょうか?」
   会長曰く、
    「手を動かし、粉は動かず。」
    「だね!」
   手を動かしても、粉と水が動かずにいるのであれば、大変無駄な動きをしていることになります。ここでは、この現象を生んでいることを、最初に目に見えるレベルとして手の動きという視点で検討し、第二に粉と水の粒子レベルで検討します。粉と水を撹拌する関係を粉の中の構造レベル(澱粉量やタンパク質粒)で検討するということも重要であるので、これについては、また別の機会に検証します。
  
  さて、最初に目に見えるレベルで、どの様な手の動きに無駄があるのであろうか?
  そもそも、自身の手の動きがどのような軌跡を描いておるのか、その際にそば粉は、どの様な動きをするのかを考えたことが無かった。左右の手を鉢に入れ、指を立てて、混ぜ合わさるように、手を大きな円を描くように動かしています。自然とかき混ざっているかのような錯覚に陥り、これで善いとしてきました。改めて考えなおしてみると、この手の動きで本当に粉が均等に動くのであろうか?
  
  この事件?以降、YouTubeで名人という方々の水回しの映像を確認しました。水回しのVIDOはあまり多くなく、かつ、手や指先の動きを詳細に捉えた資料は少ない。名人の水回し映像は、皆さん、焦って手をかき回すというのではなく、加えた水に粉をまぶす様な作業に見えます。私の場合は、ただひたすら、早く手を大きく回すことに注力していたが、名人の動きはそんなに大きな動きではない。一つの例では、左右の手を内側から外側に大きく円を描くように回している場合。二つ目の例では、左右の手を真ん中から外側に向けて動かすが、その範囲は右手なら真ん中から右外側に、左手はその反対に、半分の範囲を一方の手が受け持つように手を動かします。左右の手のひらをこすり合わせる「揉み手」は、余り良くないので使わないとする映像と、それとは反対に積極的に使用する映像があります。指を粉の下に入れ、上に動かすことで「煽る手の動き」を多用している映像。煽り方には、これとは異なり、手前の粉を先の方へと持ち上げて送る動きの映像。このように、様々な手の動きをしています。ということは、手の動かし方に必ずこれでなければいけないという方法があるのではなく、色々と工夫して手を動かしているということになる(YouTube)。私の水回しは、手をやたら早く動かすことが目的であったようです。そもそもの目的である、水と粉を均一に混ぜ合わせる作業ということへの意識が足りなかったと思えてきました。

 Webで得られる情報には限りがあります。本当に見たいところにフォーカスされているとは限らない。そこで、色々な方の水回しの方法を確認してみたいという衝動に駆られました。そこで、昨年の夏に、「幌加内そば祭り」に出向きました。また、岩見沢で行われた「空そば祭り」にも伺った。幌加内では名人戦を見学し多くの高段位者が一緒にそばを打つので、その際の水回し方法を比較検討することができ、参考になりました。加えて、そば祭りに出店しているたくさんのそば同好会や愛好会の高段位者の方が、バックヤードでそばを打つところを見学させていただきました。ここで、前年の幌加内名人のH氏と出会うことができました。H氏には、その後も色々とご教授いただいており、大変感謝しています。これらで得た水回し時の手の動きに関する情報を次にまとめてみます。


水回しに関する情報のまとめ(順不同)

1. ただ単に手が早く動くことが重要ではなく、鉢の中にある粉が良く動くということが重要なのだと思われます。
2. 手を大きく使い、それに応じて粉も大きく動く方が多いと思われます。
3. 煽る作業や、揉み手は効率的に行われている。煽りや揉み手の比率は、その方により異なるようです。
4. 煽ることで、水と粉の混ざりが進んでいくように見え、揉み手で出来上がっているダマに粉をこすり合わせているように見えます。やはり、この二つの作業はやったほうがよさそうという結論です。
5. 特に、粉に水を加えて撹拌を行う最初の段階では、水と粉とをゆっくり混ぜ合わせている方が多く、私のように、一気に混ぜはじめる方はいません。これは、一気に指を入れてかき混ぜると指に水と粉が付き、その後の作業に支障を来すためと思われます。
6. 加水直後の手の動きを早くするという動きは、粉と水と指との接点を小さく短時間にすることを指しているのではないかと思われます。ただ単に手を早く回せば良いというのではなく、指が接する時間を短時間とし、かつ、粉が動くような動きを要求しているのだと思われます。
7. 最初の加水後の水と粉との混合の際の手と指の使い方と、2回目の加水以降に行う手と指の使い方、くくりに入る頃の手と指の使い方は全く異なると思われます。
8. 粉に加水し、混合開始段階では、鉢底に粉がこびりついているが、そこに水玉をこすりつけながら混合しているような手の動きをする方がいます。非常に効果的と思われます。これは、たぶんわざとそうしているのではないかと思われます。そうすることで、この方の水回しは非常に早いとかんじました。

 第二に、そば粉の組成成分と水の分子レベルで、粉と水の混合を検討してみます。そば粉は、12~13%のタンパク質を含み、その6~70%が水に溶けやすい水溶性タンパク質です。そば粉十割の手打ちのそば切 りは、「湯ごね」 と呼ばれるように熱湯を原料粉 に加えて澱粉の一部を糊化 させ、糊 の力 によって生地を形成 させる手法が昔か ら行われて きています。し し、熟 練者 は熱湯を用いずに水を使用する場合 もあります。従 これは、そ ば粉中に多く含 まれ る水溶性 ンパ ク質の粘性 を巧みに利用 した技法 であ るとされてきました(1980 藤村 和夫)。


 その後、確かな数字は不明ですが水溶性の多糖類がタンパク質の10%程度存在し、多糖類の水溶性物質が水に溶けつなぎの役割をし、そばの粘性にはこの水溶性多糖類(Galactose60% 上で最も多く、次 いでXylose Mannose 順)が、水溶性タンパク質より大きく関与していることが示されました(1991 大日方 洋)。しかし、水溶性タンパク質と水溶性多糖類の粘着性は付着力はあるが、麺体形成力までの強い粘着性では無いので、大変弱い粘着力でつながります。したがって、そば粉の間に均一に水を加えて、水が水溶性タンパク質と水溶性多糖類に行き渡らないと両者の粘性が発揮されず、つながらないことになります。これと同時進行で、そば粉が水に触れるとすぐにこれらの水溶性物質が水と結びつき、水を通しにくい層をつくってしまいます。すると、この層の内側には水と触れないタンパク質や多糖類が存在する事になります。この水を通しにくい層は弱い力で壊れるので、軽く撹拌するとほぐれ、層の内側の物質も水と触れることができるようになします。しかし、この時に強い力が加わると、部分的に圧縮され塊となり、層の表面に水と多糖類との幕が覆い、その中に水が入らなくなります。この状況では、その層の内側の物質には水が触れずに塊となって存在してしまう。この塊は水を含まないので、蕎麦麺が切れる原因となります。よって、そば粉に加水したら、そば粉に力を加えて硬い層を造らない様に軽く撹拌することが重要になります。
 
 この原理から、大久保(2002)は、十割そばを家庭で家庭の用具を用いて水回しする方法を示しています。一つは、指を使わず棒を用いて撹拌する方法、二つ目に粉と水をタッパに入れてシュークする方法、三つ目に粉と水をビニール袋に入れてシェークする方法です。棒を用いる撹拌は、指を用いないので指にダマが付かないので効率よく撹拌できる方法です、タッパまたはビニール袋に粉と水を加えてシュークする方法は、煽り手の連続で撹拌する方法であす。実際にこれで十割そばの水回しができることを示しています。鉢を用いた水回しでは、これらの原理を上手に活用することが出来れば良いということになります。これにより、加水直後の手の動きは、できるだけ水と粉と接する時間を短くすることです。煽り手は効率よく用いること。粉を水平方向だけでなく垂直方向へも効率よく動かすことが知見として得られます。
 このように二つの視点から見てきた水回し時の手の動きについての知見は、ほぼ同じようなことを示していることが判明しました。


 これらの知見を基に、少しずつ試しながら水回しを行うようになってきました。その後、いつの間にか、何が功を奏しているのかよくわかりませんが、札幌新川そばの会で提供されるそば粉であれば、蕎麦が切れることは無くなりました。また、切り終えた段階で、ごみがほとんど出なくなってきました。ただし、あくまで生粉打ちに良く合う札幌新川そばの会のそば粉であればという前提であります。

 
 話は時を巻き戻して、私は、会長に突然そばの塊を切られた隣の大先輩に御礼を言いました。私の真っ二つに切られたそばの塊を再度こねて、のして、切って蕎麦にしました。打ちあがった蕎麦は、打ち粉を払おうと持ち上げると、短い切れ端がバラバラと落ちてきました。切り終える頃には、二束ほどの短い切れ端がゴミとなって出来上がりました。でも、負け惜しみではないですが、この短い蕎麦も揚げて食べると美味しいですし、そのまま茹でて冷たい短いそばに大根おろしを乗せてぶっかけでスプーンで食べても美味しいのです。負け惜しみでした。



(参考文献)
1980 藤村和夫 そばの技3版 食品出版社
1991 大日向 洋 そば粉に含まれる水溶性粘質物の特性について 日本食品工業学会誌 Vol.38 No. 5 P 391-397
2002 大久保裕弘 誰でも打てる十割そば    農山漁村文化協会


2016年1月30日土曜日

そばとわたし(7) いっきかすい てはグローブ (そば打ち語録)

いっきかすい てはグローブ

札幌新川そばの会では、生粉打ちでそばを打ちます。そば粉と水でそばを打ちます。生粉打ちでお湯を用いることもありますが、お湯も使わず水で打ちます。

この日も、美味しい蕎麦のために、そば粉を篩い終え、1回目の加水で250mlを加えました。
 

 会長曰く、
  「なぜ、水を半分しか入れないの?」
 という問いです。
 
 私は、
  「なぜと言われても、そうするようにと教えてもらいましたが?」
 と答えました。
 
 会長は、
  「一気に水を加えたほうが、混ざりやすいけど」
  「やってごらん!」
 
 私は、
  「わかりました。」
 
 と答えます。


1kgのそば粉に対して、500mlの水を用意していましたので、8割がた一気に水を加えました。そして、水回し開始です。

指先から、手の内側に水が付き、そば粉もくっ付いて、指先はそば粉のダマで膨れています。江戸流の教えでは、1回目の加水は目星の加水量の半分程度を加えるとなっていました。そして、水回しでは手に水が付かないように、ましてや手のひらに水とそば粉が付かないようにということでした。今の私の手はどうかというと、指先が粉だらけで、かろうじて手のひらはまだきれいです。指先のそばを取ろうと躍起になっています。一度にあんなにたくさんの水を加えれば、指先に水とそば粉が付いてどうしようもなくなるということが分かりました。


 会長曰く、
  「指先にそんなに付くのは、あなたが悪い。」

  「手に付かないように、混ぜないと。」

  「一気加水の方が、粉と水が混ざりやすいので、一気に水を加えなさい。」


 私は、
 「うまくいかないですね」

「またやってみます。」

 と、結構素直に答えました。


しかし、水をたくさん加えて、手に付かないようにするにはどうするのか、一気加水が本当に水と粉が混ざりやすくなるのかという二つの点に、十分な理解はしていませんでした。私の指先は、そば粉で小さなグローブをしているようです。

ここでは、そば粉に水を加えて均一に混合する際に、水を少しずつ加えたほうが良いのか、一気に加えたほうが混合しやすいのかという問いについて考えて見ます。

一茶庵の片倉康雄さんは、一気加水を薦めています。水の加え方と所要時間について、一気に水を加え、1分で混ぜろと言います(1988 片倉康雄)。一茶庵のそば教室では、今でも一気加水でのそば打ちを教えているという情報(一茶庵手打ち蕎麦プロ教室・蕎麦打ち)がWebにあります。

ではなぜ一気加水が良いのかという知見を探してみると、「そば打ちを科学する」というテーマで、2つの報告に行きつきます。

一つは、第5回千葉県そば大学講座講演資料での発表資料(2009 熊田鴻)です。そば粉に水を混ぜることで、水がそば粉の澱粉を湿式粉砕していることを示しています。ここでは、そば粉への加水を一気に行う、多段階で行う、連続多段階で行う際の粉と水の混ざり方を比較検討したとあります。三つの加水方法での長所と短所が記載されていますが、その裏付けとなるデータの掲載は見当たりません。よって、これを以って一気加水が良いとはいえません。

二つ目の情報は、TOKYO蕎麦塾そば打ち教室での昭和産業(株)食品開発センター第一開発グループの清水吉さんの資料(そば打ちの技を科学する)がWebに掲載されています。一報目と同様に、加水による澱粉粒の湿式粉砕に関する顕微鏡図は掲載されています。ここでは、『加水はなるべく一度に一気に加水すること。そば粉の澱粉組成の塊を組成微粒子に分解するためには、水を粉全体に早く分散させなければならない。(引用文)』と記載されています。そば粉の澱粉組成の分解と水回しとの関係を示しています。しかし、その裏付けとなる電子顕微鏡図で、一気に加水した場合と、そうでない場合の比較検討結果は掲載されていないので確認できません。また、論文への投稿は無いようです。

このように、一気加水がよいという理由を科学的に証明した論文やその裏付けデータを明確に提示しているものは存在していないようです。どなたか、ご存知でしたらご教授いただけると幸いです。

堀金 彰(2004)は、十割そばにおける水回し工程の解析を行い、十割のそば粉と水との混合は、3分で終了していることを、水回しによる加水の浸透と、MRI測定と物性測定で証明しています。生粉打ちの水回しは3分で終了して、それ以降は加水の浸透と物性に変化が生じないということは、一気に水を加えなければ、水と粉は均一に混ざり合わないかもしれないということを示しています。3分でそば粉と水の混合が終了するのであれば、最初の加水でほとんどそば粉と水の混合は終了しているので、その後いくらかき混ぜても意味が無いことを示します。このような状態で、少しずつ加水していくことになれば混ぜ合わさったものに、水を加えて、再度混ぜ合わせるのに時間を要するということを繰り返すことになり、大変非効率的な作業になります。そば粉にストレスをかけない(うつかんがえる参照)ことが美味しいそばに繋がるという前提に立つと、これは善ろしくありません。本論文が示す加水の浸透とMRIと物性測定の経時的変化は大変興味深い内容です。

ここで、最初に触れた片倉康雄氏の経験に基づく記述を再検証してみます。ここでは次のように述べられています。


<引用>
加水を何度かに分けるのは、どうしてよくないのか。
 それは、粉のひとつぶひとつぶに、平均に水がまわらないからよくないのである。水を余分に含んだところができる一方で、水のまわりの充分でないところもできてしまう。そればかりか、小さな塊をつぶしてみると、最後まで粉のままのところが残っている場合も少なくない。
 何度かに分けて水を加えるとなれば(足し水の場合も同じことだが)、初回に加える水は必要量に充たない。粉の量に対して、水の量が絶対的に不足している。粉のひとつぶひとつぶにまで水が充分に行き渡らぬのは、考えてみれば当然のなりゆきである。
 それにまた、かきまわす作業がなにがしかは進んでいるので、すでに水を吸った粉、まだ水を吸っていない粉が、複雑微妙に入り混じっている.じつは、これが問題なのである。そういうところに再度、水を加えたら、何が起こるか。
 木鉢の中の粉は、再加水を必要とする箇所だけに限って足し水できる状態にはない。複雑微妙に入り混じっている。そこに再加水する以上、足し水は、水の足りないところに滲みこみもすれば、すでに充分に水を含んでいるところに、さらに余分な水が加わりたがることにもなる。つまりは水が平均せず、粉のひとつぶひとつぶにまんべんなく水分を含ませる、という水まわしのねらいから外れてしまう。

片倉康雄氏の経験に基づく記述は、堀金 彰(2004)によりその一部を証明されたことになります。

これらの知見を総合すると、一気加水は、少なくとも生粉打ちにおいては良いということです。片倉氏の言うように1分ではないかもしれませんが、現在の科学では3分で混ざり合っていることが確認されています。

そば粉と水の混合が3分で終了するということは、如何にこの時間を有効に使い、両者を混ぜ合わせるかが、水回しの神髄なのだと思われます。
3分は、カップヌードルが出来上がる時間で、ウルトラマンが地球で生きられる時間で、ボクシングの1ラウンドの時間です。長いようで短い、短いようで長い時間をどう使うのが善いかという疑問には、別の機会で検討することにします。


一気加水で私の手にはグローブのようなそば粉の塊が指先についています。きれいに落として粉をまとめて、ねりに入りました。この日の蕎麦は、切があまりうまくいかず、太いのと細いのが混在してました。でも、何故か自分の打ったそばはそれなりに美味しいのです。



(参考文献)
1988 片倉康雄 手打そばの技術―一茶庵・友蕎子    旭屋出版
一茶庵手打ち蕎麦プロ教室・蕎麦打ち(2016121日確認http://www.pdsys.jp/soba/itsa-an-sobauchi.htm
2009     熊田鴻   蕎麦打ちを科学する 第5回千葉県そば大学講座講演資料 発表資料         http://homepage3.nifty.com/kumatako/sobakagaku-siryousitu/sobautiwokagakusuru.pdf
2015     清水吉郎 そば打ちの技を科学する      TOKYO蕎麦塾そば打ち教室 昭和産業(株)食品開発センター 第一開発グループ         "http://homepage3.nifty.com/kumatako/tokyo-sobajyuku/sobautikai050612/waza-kagaku.html

2004     堀金 彰 他       そば切りの水回し工程の解析 Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol. 51, No. 7, 346351