たまに、たまみろ てうごかし、こなうごかず
今日も、札幌新川そばの会でそば打ちです。
6月の暑い日です。まだ、夏は先ですが暑い朝でした。
そば打ちの手順は覚え、流れでそばを打つことができるようになった頃でした。水回しが終わり、まとめに入り、いざこねはじめたときでした。
そば打ちの手順は覚え、流れでそばを打つことができるようになった頃でした。水回しが終わり、まとめに入り、いざこねはじめたときでした。
会長曰く、
「この玉貸してごらん。」
会長、おもむろにそばの塊を包丁で真っ二つに。
会長曰く、
「あーーあ。これだもんな!!」
私は、唖然、茫然。
私曰く、
「何が・・・。ですか・・。」
会長曰く、
「これ、見てごらん。」
「混ざってないでしょう。」
見せられたそばの塊を見て、私曰く、
「白いところがありますね。」
会長曰く、
「これで、水回しが分かるね。」
会長の、この突然の行動にビックリしていましたが、その趣旨がようやく理解でき、少し正気に戻りました。すると、隣のうち台に移動していき、隣の方のそばの塊を取り上げて、同じように真っ二つに切り裂きました。その切り口を、私のところへ持ってきて、
会長曰く、
「これを見なさい。」
「このくらいに水が回らないと。」
私曰く、
「はい、本当に違いますね。」
隣の先輩曰く、
「・・・・!!!」
私のそばの塊を取り上げて、見せてくれたまでは良いのですが、隣の先輩はいい迷惑です。突然のことで、隣の先輩は、会長のなすがままに何の抵抗もなく応じるほかなかったのだと思います。私にしてみればありがたいことで、水回しの状況が、こんなに違うのだということを確認できました。隣の先輩は、作業を止められ、そばの塊を寸断されたので、いい迷惑です。私は、隣の先輩にお礼を言いました。
確かに、水回しがしっかりできていない状態でまとめに入ると、このような玉の状態になるのだと思われます。
水回しの際の加水に関しては、前回の「いっきかすい」にて延べたとおりです。
この日の水回しの問題は、私自身は、鉢の中で、一所懸命に粉と水をかき混ぜ、均一にと思ってかき混ぜているわけですが、どこに問題があるのか分からないということでした。
篩ったそば粉に、水を加え、均一になれと思いながら混ぜているのです。それも、自身では結構早くかき混ぜているつもりです。手は、動いているけど、粉と水が混ざらないといいう状況がなぜ起こるのでしょうか。
私いわく、
「会長、手を動かしているのに、何故なんでしょうか?」
会長曰く、
「手を動かし、粉は動かず。」
「だね!」
手を動かしても、粉と水が動かずにいるのであれば、大変無駄な動きをしていることになります。ここでは、この現象を生んでいることを、最初に目に見えるレベルとして手の動きという視点で検討し、第二に粉と水の粒子レベルで検討します。粉と水を撹拌する関係を粉の中の構造レベル(澱粉量やタンパク質粒)で検討するということも重要であるので、これについては、また別の機会に検証します。
さて、最初に目に見えるレベルで、どの様な手の動きに無駄があるのであろうか?
そもそも、自身の手の動きがどのような軌跡を描いておるのか、その際にそば粉は、どの様な動きをするのかを考えたことが無かった。左右の手を鉢に入れ、指を立てて、混ぜ合わさるように、手を大きな円を描くように動かしています。自然とかき混ざっているかのような錯覚に陥り、これで善いとしてきました。改めて考えなおしてみると、この手の動きで本当に粉が均等に動くのであろうか?
この事件?以降、YouTubeで名人という方々の水回しの映像を確認しました。水回しのVIDOはあまり多くなく、かつ、手や指先の動きを詳細に捉えた資料は少ない。名人の水回し映像は、皆さん、焦って手をかき回すというのではなく、加えた水に粉をまぶす様な作業に見えます。私の場合は、ただひたすら、早く手を大きく回すことに注力していたが、名人の動きはそんなに大きな動きではない。一つの例では、左右の手を内側から外側に大きく円を描くように回している場合。二つ目の例では、左右の手を真ん中から外側に向けて動かすが、その範囲は右手なら真ん中から右外側に、左手はその反対に、半分の範囲を一方の手が受け持つように手を動かします。左右の手のひらをこすり合わせる「揉み手」は、余り良くないので使わないとする映像と、それとは反対に積極的に使用する映像があります。指を粉の下に入れ、上に動かすことで「煽る手の動き」を多用している映像。煽り方には、これとは異なり、手前の粉を先の方へと持ち上げて送る動きの映像。このように、様々な手の動きをしています。ということは、手の動かし方に必ずこれでなければいけないという方法があるのではなく、色々と工夫して手を動かしているということになる(YouTube)。私の水回しは、手をやたら早く動かすことが目的であったようです。そもそもの目的である、水と粉を均一に混ぜ合わせる作業ということへの意識が足りなかったと思えてきました。
Webで得られる情報には限りがあります。本当に見たいところにフォーカスされているとは限らない。そこで、色々な方の水回しの方法を確認してみたいという衝動に駆られました。そこで、昨年の夏に、「幌加内そば祭り」に出向きました。また、岩見沢で行われた「空そば祭り」にも伺った。幌加内では名人戦を見学し多くの高段位者が一緒にそばを打つので、その際の水回し方法を比較検討することができ、参考になりました。加えて、そば祭りに出店しているたくさんのそば同好会や愛好会の高段位者の方が、バックヤードでそばを打つところを見学させていただきました。ここで、前年の幌加内名人のH氏と出会うことができました。H氏には、その後も色々とご教授いただいており、大変感謝しています。これらで得た水回し時の手の動きに関する情報を次にまとめてみます。
水回しに関する情報のまとめ(順不同)
1. ただ単に手が早く動くことが重要ではなく、鉢の中にある粉が良く動くということが重要なのだと思われます。
2. 手を大きく使い、それに応じて粉も大きく動く方が多いと思われます。
3. 煽る作業や、揉み手は効率的に行われている。煽りや揉み手の比率は、その方により異なるようです。
4. 煽ることで、水と粉の混ざりが進んでいくように見え、揉み手で出来上がっているダマに粉をこすり合わせているように見えます。やはり、この二つの作業はやったほうがよさそうという結論です。
5. 特に、粉に水を加えて撹拌を行う最初の段階では、水と粉とをゆっくり混ぜ合わせている方が多く、私のように、一気に混ぜはじめる方はいません。これは、一気に指を入れてかき混ぜると指に水と粉が付き、その後の作業に支障を来すためと思われます。
6. 加水直後の手の動きを早くするという動きは、粉と水と指との接点を小さく短時間にすることを指しているのではないかと思われます。ただ単に手を早く回せば良いというのではなく、指が接する時間を短時間とし、かつ、粉が動くような動きを要求しているのだと思われます。
7. 最初の加水後の水と粉との混合の際の手と指の使い方と、2回目の加水以降に行う手と指の使い方、くくりに入る頃の手と指の使い方は全く異なると思われます。
8. 粉に加水し、混合開始段階では、鉢底に粉がこびりついているが、そこに水玉をこすりつけながら混合しているような手の動きをする方がいます。非常に効果的と思われます。これは、たぶんわざとそうしているのではないかと思われます。そうすることで、この方の水回しは非常に早いとかんじました。
第二に、そば粉の組成成分と水の分子レベルで、粉と水の混合を検討してみます。そば粉は、12~13%のタンパク質を含み、その6~70%が水に溶けやすい水溶性タンパク質です。そば粉十割の手打ちのそば切
りは、「湯ごね」
と呼ばれるように熱湯を原料粉
に加えて澱粉の一部を糊化
させ、糊
の力
によって生地を形成
させる手法が昔か
ら行われて
きています。し
か
し、熟
練者
は熱湯を用いずに水を使用する場合
もあります。従
来
これは、そ
ば粉中に多く含
まれ
る水溶性
タ
ンパ
ク質の粘性
を巧みに利用
した技法
であ
るとされてきました(1980 藤村 和夫)。
その後、確かな数字は不明ですが水溶性の多糖類がタンパク質の10%程度存在し、多糖類の水溶性物質が水に溶けつなぎの役割をし、そばの粘性にはこの水溶性多糖類(Galactoseが60%以 上で最も多く、次 いでXylose、 Mannoseの 順)が、水溶性タンパク質より大きく関与していることが示されました(1991 大日方 洋)。しかし、水溶性タンパク質と水溶性多糖類の粘着性は付着力はあるが、麺体形成力までの強い粘着性では無いので、大変弱い粘着力でつながります。したがって、そば粉の間に均一に水を加えて、水が水溶性タンパク質と水溶性多糖類に行き渡らないと両者の粘性が発揮されず、つながらないことになります。これと同時進行で、そば粉が水に触れるとすぐにこれらの水溶性物質が水と結びつき、水を通しにくい層をつくってしまいます。すると、この層の内側には水と触れないタンパク質や多糖類が存在する事になります。この水を通しにくい層は弱い力で壊れるので、軽く撹拌するとほぐれ、層の内側の物質も水と触れることができるようになします。しかし、この時に強い力が加わると、部分的に圧縮され塊となり、層の表面に水と多糖類との幕が覆い、その中に水が入らなくなります。この状況では、その層の内側の物質には水が触れずに塊となって存在してしまう。この塊は水を含まないので、蕎麦麺が切れる原因となります。よって、そば粉に加水したら、そば粉に力を加えて硬い層を造らない様に軽く撹拌することが重要になります。
この原理から、大久保(2002)は、十割そばを家庭で家庭の用具を用いて水回しする方法を示しています。一つは、指を使わず棒を用いて撹拌する方法、二つ目に粉と水をタッパに入れてシュークする方法、三つ目に粉と水をビニール袋に入れてシェークする方法です。棒を用いる撹拌は、指を用いないので指にダマが付かないので効率よく撹拌できる方法です、タッパまたはビニール袋に粉と水を加えてシュークする方法は、煽り手の連続で撹拌する方法であす。実際にこれで十割そばの水回しができることを示しています。鉢を用いた水回しでは、これらの原理を上手に活用することが出来れば良いということになります。これにより、加水直後の手の動きは、できるだけ水と粉と接する時間を短くすることです。煽り手は効率よく用いること。粉を水平方向だけでなく垂直方向へも効率よく動かすことが知見として得られます。
このように二つの視点から見てきた水回し時の手の動きについての知見は、ほぼ同じようなことを示していることが判明しました。
これらの知見を基に、少しずつ試しながら水回しを行うようになってきました。その後、いつの間にか、何が功を奏しているのかよくわかりませんが、札幌新川そばの会で提供されるそば粉であれば、蕎麦が切れることは無くなりました。また、切り終えた段階で、ごみがほとんど出なくなってきました。ただし、あくまで生粉打ちに良く合う札幌新川そばの会のそば粉であればという前提であります。
話は時を巻き戻して、私は、会長に突然そばの塊を切られた隣の大先輩に御礼を言いました。私の真っ二つに切られたそばの塊を再度こねて、のして、切って蕎麦にしました。打ちあがった蕎麦は、打ち粉を払おうと持ち上げると、短い切れ端がバラバラと落ちてきました。切り終える頃には、二束ほどの短い切れ端がゴミとなって出来上がりました。でも、負け惜しみではないですが、この短い蕎麦も揚げて食べると美味しいですし、そのまま茹でて冷たい短いそばに大根おろしを乗せてぶっかけでスプーンで食べても美味しいのです。負け惜しみでした。
(参考文献)
YouTube(https://www.youtube.com/results?search_query=%E3%81%9D%E3%81%B0%E6%89%93%E3%81%A1+%E6%B0%B4%E5%9B%9E%E3%81%97+ 2016年2月16日確認)
1980 藤村和夫 そばの技3版 食品出版社
1991 大日向 洋 そば粉に含まれる水溶性粘質物の特性について 日本食品工業学会誌 Vol.38 No. 5 P 391-397
2002 大久保裕弘 誰でも打てる十割そば 農山漁村文化協会
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