札幌そば研究センター

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2017年11月5日日曜日

そば打ち記録(70)山都町宮古地区大下さんから頂いたそば粉でそば打ち

先週末に伺った山都町宮古地区大下さんから頂戴した宮古地区在来種新そば粉でそばを打ちました。

大下さんから頂戴したそば粉は、超微粉ですので湯捏ねでのそば打ちです。
1kgの粉に対して500mlの沸騰した湯を加えて素早く水回しです。その時間30秒くらいでした。1分はかかっていません。その後すぐに捏ねながら粉を少しずつくくっていきます。段々とそば粉が温かさとともに大きな団子状になってきます。少し水が足りないのでこの段階で少しの水を足しました。その後、耳たぶの柔らかさになるまで捏ねながら硬さを調整します。ここまで、3分程度です。

最初に、固まったそば粉の塊を1つにして江戸流の丸出しにしてみようと始めましたが、回りの部分が割れます。このまま、丸出しを続けてもそばにはストレスになることを再確認しました。そこで、塊を3つに分けて、1つずつを丸にのしました。これを3回繰り返して3つの丸くのされたもの作ります。ここまで、9分です。

これを3枚重ねて、2つにおり半円形になったものをまな板に置き、いつもと同様に切りました。最初は短いそばになりますが、2つ目からは食べに窮しないそばの長さになります。切り終えて、18分ですので、超短い時間で1kgのそばが出来上がります。まだ、切り終えたそばには、最初に加えたお湯の温かさが残っています。

これらの水回しから切るまでの方法は、昨年大下さんを訪問した際に店主と奥様に無理を言って見学させていただいた宮古地区のそば打ちの方法です。これで、美味しいそばになるというお話は、そばに無駄なストレスをかけないで、そば粉をそばにする方法ということでした。長い時間をかけて昔から山奥(失礼な表現ですが、本当に山の中なのです。現在進行形で道路拡張工事をあちら事らでやられています。これが出来上がれば便利になりそうです。)で打たれてきたそば打ちの方法です。もちろん、この地域でのそば打ちの文化は、江戸でのそば打ちが確立する以前から打たれてきた方法ですので、その歴史から学ぶことは多いと改めて感じます。

この地域のそば打ちを知ることで、やはり、江戸流の水回しは時間の無駄をしていると思われますし、丸のしから四つだしという工程は、そばにとっては迷惑千万な方法ではないかと思います。生粉打ち(十割そば打ち)の江戸流でのそば打ちが難しい(難しいというより、商売には不向きという意味合いの方が大きかった。扱いが面倒なのでつなぎを入れて切れにくくし、打つ場所が狭いのでそれを考慮し、加えて、捨てるそばが少なくなるように効率を考えて自然と現在のような打ち方)と言われ、そばがつながり難いのは、無駄な力をそばに与えているのが一因とも考えられます。

札幌新川そばの会では、生粉の江戸流打ちに耐えうるそば粉(平均して歩留まり60%以下のそば粉になるように(粗びきが加わらない)メッシュで篩う)を用いるので、生粉打ちでもつながることは、付け加えておきます。

1分で水はそば粉に回るのです。これは論文にもその記載を見出すことができますので、水が粉に回るには1分もあれば十分なのです。その後に加える水は、塊にするためです。その時間が少しかかる粉(粗挽き等は、水もたくさん必要ですし時間もかかります)や、まったく必要のない粉(通常にそばを挽いて、60メッシュ以上で篩い歩留まり70%以上あるようであれば難しくない)まで色々です。

江戸流のそば打ちの手順でそばをきれいに打つということと、美味しいそばをいつも打つということは、目の前にあるそば粉をどう打てば美味しくできるかという視点で考えると、別物のように思えてきます。

とは言っても、江戸流のそば打ちでしっかりそばを打つということは、段位認定にはその型をしっかりできるようになることを求められている以上は、それも必要ですし、それを否定することもありません。

目の前のそば粉は、それを植え育てて、刈り取り、製粉するという沢山の苦労の上に存在しています。それを頂戴して、そばに製麺する作業だけを受け持っているのですから、よりおいしくして食べてあげたいなと改めて思いました。そのような思いに至ったのは、目の前のそば粉を育てた大下さんから直接頂戴したからかもしれません。感謝・感謝です。

茹でたそばは、数日前に宮古でいただいたそばと同じようなそばになりました。美味しく頂戴しました。

ちゃんとつながり、そばになりました。
数日前にいただいたそばと一緒です。

2016年6月26日日曜日

そば打ち記録(50) 札幌新川そばの会

2016年6月25日(土)

天候;雨
気温;16度

19日の名人戦予選会が終わり、久しぶりに余裕のあるそば打ち会です。
先月、札幌新川そばの会のK先輩から教えていただいた、幌加内のソバ製粉所にお願いした、玄そば丸抜きの粗挽き粉に挑戦です。数週間前に入手していたのですが、練習に専念し温存してきたそば粉への挑戦です。
粗挽き粉への挑戦は、山形の次年子のそば屋さんで譲っていただいた粗挽き粉に2回挑戦し、2回とも蕎麦にならなかった、苦い思い出(そば打ち記録(41)に詳細記載)があります。その後に、粗挽き粉を含めて、そば粉の水回しの方法を再考し、色々な方のお話を伺い、こんな方法なら繋がるのではないかな?という感触を得ています。その方法でこの粉にチャレンジです。


水回しの最初は一気加水で、そば量の40%の水を加えました。これを、2分でパン粉状態にしました。その後、少し時間を(30秒程度)置き80ml加水、回しながら水の無くなり具合を確認、まだ入りそうなのでまた40ml加水、ここでも少し時間を置き、そば粉の状態を確認し塊の中の状態を確認。ひと手水を加えて加水終了。普段より少し硬めにて終了。前回の粗挽き粉の際に、足りないと思い加水した後に、粉粒が保有している水が溢れ出てくるという経験から、少なめで終了して、こねる段階でテリを出すほうが良いのかもしれなと考えていました。
こねは、力を入れ過ぎて割れないように、会長が言われるように巻き込みながら、上から押さえる方法でテリが出てきたところで終了。
丸出し、四つだしと進み蕎麦になりました。


出来上った蕎麦麺は、普段の教室の粉で打った蕎麦よりは切れやすいなと感じますが、一応は蕎麦として繋がってはいます。自宅で茹でてみましたが、大丈夫でした。

初めて粗挽き粉だけの十割そば打ちに成功です。やはり、水回しの方法が重要なのではないかと感じました。水が粉の中のタンパク質、でんぷんや糖質に入り込むのに、粒子が細かなそば粉に比べて時間がかかるのだと思います。その時間を待つことで、余計な水を加える事を回避できるのではないかと思います。
とは言え、微細粉砕されたそば粉を用いた十割蕎麦に比べると、切れやすいというのは確かなようです。

その後は、練習粉を用いて1kgを打ち直しを入れて2回チャレンジしました。まで決定ではありませんが、紋別で開催される全国そば打ち名人予選会に、またエントリーするかもしれないので、練習でした。紋別は、35分で打たないといけないので、大変かもしれません??

2016年2月24日水曜日

そばとわたし(8) たまに、たまみろ   てうごかし、こなうごかず (そば打ち語録)

たまに、たまみろ てうごかし、こなうごかず

 今日も、札幌新川そばの会でそば打ちです。
  6月の暑い日です。まだ、夏は先ですが暑い朝でした。
 そば打ちの手順は覚え、流れでそばを打つことができるようになった頃でした。水回しが終わり、まとめに入り、いざこねはじめたときでした。

  会長曰く、
   「この玉貸してごらん。」
  会長、おもむろにそばの塊を包丁で真っ二つに。
  会長曰く、
   「あーーあ。これだもんな!!」
  私は、唖然、茫然。
  私曰く、
   「何が・・・。ですか・・。」
  会長曰く、
   「これ、見てごらん。」
   「混ざってないでしょう。」
  見せられたそばの塊を見て、私曰く、
   「白いところがありますね。」
  会長曰く、
   「これで、水回しが分かるね。」

 会長の、この突然の行動にビックリしていましたが、その趣旨がようやく理解でき、少し正気に戻りました。すると、隣のうち台に移動していき、隣の方のそばの塊を取り上げて、同じように真っ二つに切り裂きました。その切り口を、私のところへ持ってきて、

  会長曰く、
   「これを見なさい。」
   「このくらいに水が回らないと。」
  私曰く、
   「はい、本当に違いますね。」
  隣の先輩曰く、
   「・・・・!!!」
 
 私のそばの塊を取り上げて、見せてくれたまでは良いのですが、隣の先輩はいい迷惑です。突然のことで、隣の先輩は、会長のなすがままに何の抵抗もなく応じるほかなかったのだと思います。私にしてみればありがたいことで、水回しの状況が、こんなに違うのだということを確認できました。隣の先輩は、作業を止められ、そばの塊を寸断されたので、いい迷惑です。私は、隣の先輩にお礼を言いました。

 確かに、水回しがしっかりできていない状態でまとめに入ると、このような玉の状態になるのだと思われます。
 水回しの際の加水に関しては、前回の「いっきかすい」にて延べたとおりです。
 この日の水回しの問題は、私自身は、鉢の中で、一所懸命に粉と水をかき混ぜ、均一にと思ってかき混ぜているわけですが、どこに問題があるのか分からないということでした。

 篩ったそば粉に、水を加え、均一になれと思いながら混ぜているのです。それも、自身では結構早くかき混ぜているつもりです。手は、動いているけど、粉と水が混ざらないといいう状況がなぜ起こるのでしょうか。

   私いわく、
    「会長、手を動かしているのに、何故なんでしょうか?」
   会長曰く、
    「手を動かし、粉は動かず。」
    「だね!」
   手を動かしても、粉と水が動かずにいるのであれば、大変無駄な動きをしていることになります。ここでは、この現象を生んでいることを、最初に目に見えるレベルとして手の動きという視点で検討し、第二に粉と水の粒子レベルで検討します。粉と水を撹拌する関係を粉の中の構造レベル(澱粉量やタンパク質粒)で検討するということも重要であるので、これについては、また別の機会に検証します。
  
  さて、最初に目に見えるレベルで、どの様な手の動きに無駄があるのであろうか?
  そもそも、自身の手の動きがどのような軌跡を描いておるのか、その際にそば粉は、どの様な動きをするのかを考えたことが無かった。左右の手を鉢に入れ、指を立てて、混ぜ合わさるように、手を大きな円を描くように動かしています。自然とかき混ざっているかのような錯覚に陥り、これで善いとしてきました。改めて考えなおしてみると、この手の動きで本当に粉が均等に動くのであろうか?
  
  この事件?以降、YouTubeで名人という方々の水回しの映像を確認しました。水回しのVIDOはあまり多くなく、かつ、手や指先の動きを詳細に捉えた資料は少ない。名人の水回し映像は、皆さん、焦って手をかき回すというのではなく、加えた水に粉をまぶす様な作業に見えます。私の場合は、ただひたすら、早く手を大きく回すことに注力していたが、名人の動きはそんなに大きな動きではない。一つの例では、左右の手を内側から外側に大きく円を描くように回している場合。二つ目の例では、左右の手を真ん中から外側に向けて動かすが、その範囲は右手なら真ん中から右外側に、左手はその反対に、半分の範囲を一方の手が受け持つように手を動かします。左右の手のひらをこすり合わせる「揉み手」は、余り良くないので使わないとする映像と、それとは反対に積極的に使用する映像があります。指を粉の下に入れ、上に動かすことで「煽る手の動き」を多用している映像。煽り方には、これとは異なり、手前の粉を先の方へと持ち上げて送る動きの映像。このように、様々な手の動きをしています。ということは、手の動かし方に必ずこれでなければいけないという方法があるのではなく、色々と工夫して手を動かしているということになる(YouTube)。私の水回しは、手をやたら早く動かすことが目的であったようです。そもそもの目的である、水と粉を均一に混ぜ合わせる作業ということへの意識が足りなかったと思えてきました。

 Webで得られる情報には限りがあります。本当に見たいところにフォーカスされているとは限らない。そこで、色々な方の水回しの方法を確認してみたいという衝動に駆られました。そこで、昨年の夏に、「幌加内そば祭り」に出向きました。また、岩見沢で行われた「空そば祭り」にも伺った。幌加内では名人戦を見学し多くの高段位者が一緒にそばを打つので、その際の水回し方法を比較検討することができ、参考になりました。加えて、そば祭りに出店しているたくさんのそば同好会や愛好会の高段位者の方が、バックヤードでそばを打つところを見学させていただきました。ここで、前年の幌加内名人のH氏と出会うことができました。H氏には、その後も色々とご教授いただいており、大変感謝しています。これらで得た水回し時の手の動きに関する情報を次にまとめてみます。


水回しに関する情報のまとめ(順不同)

1. ただ単に手が早く動くことが重要ではなく、鉢の中にある粉が良く動くということが重要なのだと思われます。
2. 手を大きく使い、それに応じて粉も大きく動く方が多いと思われます。
3. 煽る作業や、揉み手は効率的に行われている。煽りや揉み手の比率は、その方により異なるようです。
4. 煽ることで、水と粉の混ざりが進んでいくように見え、揉み手で出来上がっているダマに粉をこすり合わせているように見えます。やはり、この二つの作業はやったほうがよさそうという結論です。
5. 特に、粉に水を加えて撹拌を行う最初の段階では、水と粉とをゆっくり混ぜ合わせている方が多く、私のように、一気に混ぜはじめる方はいません。これは、一気に指を入れてかき混ぜると指に水と粉が付き、その後の作業に支障を来すためと思われます。
6. 加水直後の手の動きを早くするという動きは、粉と水と指との接点を小さく短時間にすることを指しているのではないかと思われます。ただ単に手を早く回せば良いというのではなく、指が接する時間を短時間とし、かつ、粉が動くような動きを要求しているのだと思われます。
7. 最初の加水後の水と粉との混合の際の手と指の使い方と、2回目の加水以降に行う手と指の使い方、くくりに入る頃の手と指の使い方は全く異なると思われます。
8. 粉に加水し、混合開始段階では、鉢底に粉がこびりついているが、そこに水玉をこすりつけながら混合しているような手の動きをする方がいます。非常に効果的と思われます。これは、たぶんわざとそうしているのではないかと思われます。そうすることで、この方の水回しは非常に早いとかんじました。

 第二に、そば粉の組成成分と水の分子レベルで、粉と水の混合を検討してみます。そば粉は、12~13%のタンパク質を含み、その6~70%が水に溶けやすい水溶性タンパク質です。そば粉十割の手打ちのそば切 りは、「湯ごね」 と呼ばれるように熱湯を原料粉 に加えて澱粉の一部を糊化 させ、糊 の力 によって生地を形成 させる手法が昔か ら行われて きています。し し、熟 練者 は熱湯を用いずに水を使用する場合 もあります。従 これは、そ ば粉中に多く含 まれ る水溶性 ンパ ク質の粘性 を巧みに利用 した技法 であ るとされてきました(1980 藤村 和夫)。


 その後、確かな数字は不明ですが水溶性の多糖類がタンパク質の10%程度存在し、多糖類の水溶性物質が水に溶けつなぎの役割をし、そばの粘性にはこの水溶性多糖類(Galactose60% 上で最も多く、次 いでXylose Mannose 順)が、水溶性タンパク質より大きく関与していることが示されました(1991 大日方 洋)。しかし、水溶性タンパク質と水溶性多糖類の粘着性は付着力はあるが、麺体形成力までの強い粘着性では無いので、大変弱い粘着力でつながります。したがって、そば粉の間に均一に水を加えて、水が水溶性タンパク質と水溶性多糖類に行き渡らないと両者の粘性が発揮されず、つながらないことになります。これと同時進行で、そば粉が水に触れるとすぐにこれらの水溶性物質が水と結びつき、水を通しにくい層をつくってしまいます。すると、この層の内側には水と触れないタンパク質や多糖類が存在する事になります。この水を通しにくい層は弱い力で壊れるので、軽く撹拌するとほぐれ、層の内側の物質も水と触れることができるようになします。しかし、この時に強い力が加わると、部分的に圧縮され塊となり、層の表面に水と多糖類との幕が覆い、その中に水が入らなくなります。この状況では、その層の内側の物質には水が触れずに塊となって存在してしまう。この塊は水を含まないので、蕎麦麺が切れる原因となります。よって、そば粉に加水したら、そば粉に力を加えて硬い層を造らない様に軽く撹拌することが重要になります。
 
 この原理から、大久保(2002)は、十割そばを家庭で家庭の用具を用いて水回しする方法を示しています。一つは、指を使わず棒を用いて撹拌する方法、二つ目に粉と水をタッパに入れてシュークする方法、三つ目に粉と水をビニール袋に入れてシェークする方法です。棒を用いる撹拌は、指を用いないので指にダマが付かないので効率よく撹拌できる方法です、タッパまたはビニール袋に粉と水を加えてシュークする方法は、煽り手の連続で撹拌する方法であす。実際にこれで十割そばの水回しができることを示しています。鉢を用いた水回しでは、これらの原理を上手に活用することが出来れば良いということになります。これにより、加水直後の手の動きは、できるだけ水と粉と接する時間を短くすることです。煽り手は効率よく用いること。粉を水平方向だけでなく垂直方向へも効率よく動かすことが知見として得られます。
 このように二つの視点から見てきた水回し時の手の動きについての知見は、ほぼ同じようなことを示していることが判明しました。


 これらの知見を基に、少しずつ試しながら水回しを行うようになってきました。その後、いつの間にか、何が功を奏しているのかよくわかりませんが、札幌新川そばの会で提供されるそば粉であれば、蕎麦が切れることは無くなりました。また、切り終えた段階で、ごみがほとんど出なくなってきました。ただし、あくまで生粉打ちに良く合う札幌新川そばの会のそば粉であればという前提であります。

 
 話は時を巻き戻して、私は、会長に突然そばの塊を切られた隣の大先輩に御礼を言いました。私の真っ二つに切られたそばの塊を再度こねて、のして、切って蕎麦にしました。打ちあがった蕎麦は、打ち粉を払おうと持ち上げると、短い切れ端がバラバラと落ちてきました。切り終える頃には、二束ほどの短い切れ端がゴミとなって出来上がりました。でも、負け惜しみではないですが、この短い蕎麦も揚げて食べると美味しいですし、そのまま茹でて冷たい短いそばに大根おろしを乗せてぶっかけでスプーンで食べても美味しいのです。負け惜しみでした。



(参考文献)
1980 藤村和夫 そばの技3版 食品出版社
1991 大日向 洋 そば粉に含まれる水溶性粘質物の特性について 日本食品工業学会誌 Vol.38 No. 5 P 391-397
2002 大久保裕弘 誰でも打てる十割そば    農山漁村文化協会


2016年1月30日土曜日

そばとわたし(7) いっきかすい てはグローブ (そば打ち語録)

いっきかすい てはグローブ

札幌新川そばの会では、生粉打ちでそばを打ちます。そば粉と水でそばを打ちます。生粉打ちでお湯を用いることもありますが、お湯も使わず水で打ちます。

この日も、美味しい蕎麦のために、そば粉を篩い終え、1回目の加水で250mlを加えました。
 

 会長曰く、
  「なぜ、水を半分しか入れないの?」
 という問いです。
 
 私は、
  「なぜと言われても、そうするようにと教えてもらいましたが?」
 と答えました。
 
 会長は、
  「一気に水を加えたほうが、混ざりやすいけど」
  「やってごらん!」
 
 私は、
  「わかりました。」
 
 と答えます。


1kgのそば粉に対して、500mlの水を用意していましたので、8割がた一気に水を加えました。そして、水回し開始です。

指先から、手の内側に水が付き、そば粉もくっ付いて、指先はそば粉のダマで膨れています。江戸流の教えでは、1回目の加水は目星の加水量の半分程度を加えるとなっていました。そして、水回しでは手に水が付かないように、ましてや手のひらに水とそば粉が付かないようにということでした。今の私の手はどうかというと、指先が粉だらけで、かろうじて手のひらはまだきれいです。指先のそばを取ろうと躍起になっています。一度にあんなにたくさんの水を加えれば、指先に水とそば粉が付いてどうしようもなくなるということが分かりました。


 会長曰く、
  「指先にそんなに付くのは、あなたが悪い。」

  「手に付かないように、混ぜないと。」

  「一気加水の方が、粉と水が混ざりやすいので、一気に水を加えなさい。」


 私は、
 「うまくいかないですね」

「またやってみます。」

 と、結構素直に答えました。


しかし、水をたくさん加えて、手に付かないようにするにはどうするのか、一気加水が本当に水と粉が混ざりやすくなるのかという二つの点に、十分な理解はしていませんでした。私の指先は、そば粉で小さなグローブをしているようです。

ここでは、そば粉に水を加えて均一に混合する際に、水を少しずつ加えたほうが良いのか、一気に加えたほうが混合しやすいのかという問いについて考えて見ます。

一茶庵の片倉康雄さんは、一気加水を薦めています。水の加え方と所要時間について、一気に水を加え、1分で混ぜろと言います(1988 片倉康雄)。一茶庵のそば教室では、今でも一気加水でのそば打ちを教えているという情報(一茶庵手打ち蕎麦プロ教室・蕎麦打ち)がWebにあります。

ではなぜ一気加水が良いのかという知見を探してみると、「そば打ちを科学する」というテーマで、2つの報告に行きつきます。

一つは、第5回千葉県そば大学講座講演資料での発表資料(2009 熊田鴻)です。そば粉に水を混ぜることで、水がそば粉の澱粉を湿式粉砕していることを示しています。ここでは、そば粉への加水を一気に行う、多段階で行う、連続多段階で行う際の粉と水の混ざり方を比較検討したとあります。三つの加水方法での長所と短所が記載されていますが、その裏付けとなるデータの掲載は見当たりません。よって、これを以って一気加水が良いとはいえません。

二つ目の情報は、TOKYO蕎麦塾そば打ち教室での昭和産業(株)食品開発センター第一開発グループの清水吉さんの資料(そば打ちの技を科学する)がWebに掲載されています。一報目と同様に、加水による澱粉粒の湿式粉砕に関する顕微鏡図は掲載されています。ここでは、『加水はなるべく一度に一気に加水すること。そば粉の澱粉組成の塊を組成微粒子に分解するためには、水を粉全体に早く分散させなければならない。(引用文)』と記載されています。そば粉の澱粉組成の分解と水回しとの関係を示しています。しかし、その裏付けとなる電子顕微鏡図で、一気に加水した場合と、そうでない場合の比較検討結果は掲載されていないので確認できません。また、論文への投稿は無いようです。

このように、一気加水がよいという理由を科学的に証明した論文やその裏付けデータを明確に提示しているものは存在していないようです。どなたか、ご存知でしたらご教授いただけると幸いです。

堀金 彰(2004)は、十割そばにおける水回し工程の解析を行い、十割のそば粉と水との混合は、3分で終了していることを、水回しによる加水の浸透と、MRI測定と物性測定で証明しています。生粉打ちの水回しは3分で終了して、それ以降は加水の浸透と物性に変化が生じないということは、一気に水を加えなければ、水と粉は均一に混ざり合わないかもしれないということを示しています。3分でそば粉と水の混合が終了するのであれば、最初の加水でほとんどそば粉と水の混合は終了しているので、その後いくらかき混ぜても意味が無いことを示します。このような状態で、少しずつ加水していくことになれば混ぜ合わさったものに、水を加えて、再度混ぜ合わせるのに時間を要するということを繰り返すことになり、大変非効率的な作業になります。そば粉にストレスをかけない(うつかんがえる参照)ことが美味しいそばに繋がるという前提に立つと、これは善ろしくありません。本論文が示す加水の浸透とMRIと物性測定の経時的変化は大変興味深い内容です。

ここで、最初に触れた片倉康雄氏の経験に基づく記述を再検証してみます。ここでは次のように述べられています。


<引用>
加水を何度かに分けるのは、どうしてよくないのか。
 それは、粉のひとつぶひとつぶに、平均に水がまわらないからよくないのである。水を余分に含んだところができる一方で、水のまわりの充分でないところもできてしまう。そればかりか、小さな塊をつぶしてみると、最後まで粉のままのところが残っている場合も少なくない。
 何度かに分けて水を加えるとなれば(足し水の場合も同じことだが)、初回に加える水は必要量に充たない。粉の量に対して、水の量が絶対的に不足している。粉のひとつぶひとつぶにまで水が充分に行き渡らぬのは、考えてみれば当然のなりゆきである。
 それにまた、かきまわす作業がなにがしかは進んでいるので、すでに水を吸った粉、まだ水を吸っていない粉が、複雑微妙に入り混じっている.じつは、これが問題なのである。そういうところに再度、水を加えたら、何が起こるか。
 木鉢の中の粉は、再加水を必要とする箇所だけに限って足し水できる状態にはない。複雑微妙に入り混じっている。そこに再加水する以上、足し水は、水の足りないところに滲みこみもすれば、すでに充分に水を含んでいるところに、さらに余分な水が加わりたがることにもなる。つまりは水が平均せず、粉のひとつぶひとつぶにまんべんなく水分を含ませる、という水まわしのねらいから外れてしまう。

片倉康雄氏の経験に基づく記述は、堀金 彰(2004)によりその一部を証明されたことになります。

これらの知見を総合すると、一気加水は、少なくとも生粉打ちにおいては良いということです。片倉氏の言うように1分ではないかもしれませんが、現在の科学では3分で混ざり合っていることが確認されています。

そば粉と水の混合が3分で終了するということは、如何にこの時間を有効に使い、両者を混ぜ合わせるかが、水回しの神髄なのだと思われます。
3分は、カップヌードルが出来上がる時間で、ウルトラマンが地球で生きられる時間で、ボクシングの1ラウンドの時間です。長いようで短い、短いようで長い時間をどう使うのが善いかという疑問には、別の機会で検討することにします。


一気加水で私の手にはグローブのようなそば粉の塊が指先についています。きれいに落として粉をまとめて、ねりに入りました。この日の蕎麦は、切があまりうまくいかず、太いのと細いのが混在してました。でも、何故か自分の打ったそばはそれなりに美味しいのです。



(参考文献)
1988 片倉康雄 手打そばの技術―一茶庵・友蕎子    旭屋出版
一茶庵手打ち蕎麦プロ教室・蕎麦打ち(2016121日確認http://www.pdsys.jp/soba/itsa-an-sobauchi.htm
2009     熊田鴻   蕎麦打ちを科学する 第5回千葉県そば大学講座講演資料 発表資料         http://homepage3.nifty.com/kumatako/sobakagaku-siryousitu/sobautiwokagakusuru.pdf
2015     清水吉郎 そば打ちの技を科学する      TOKYO蕎麦塾そば打ち教室 昭和産業(株)食品開発センター 第一開発グループ         "http://homepage3.nifty.com/kumatako/tokyo-sobajyuku/sobautikai050612/waza-kagaku.html

2004     堀金 彰 他       そば切りの水回し工程の解析 Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol. 51, No. 7, 346351

2016年1月24日日曜日

そばとわたし(6) うつこと かんがえること (そば打ち語録)

2016年1月24日  うつこと かんがえること


 今日は札幌新川そばの会への参戦、5回目です。2回目以降は、会長が親身になってそば打ちを教えて下さいっています。一番最初に教えていただいた、江戸流のそばを打つ手順にそって打つという作業を2回目以降は、行っていません。四つ出しをせずに、のしながら4角に成形するような、江戸流のそば打ちではなく、それぞれの作業で重要なことを教えて下さっています。
 そば粉を篩い、1回目の加水を行い、「パン粉状態」と言い聞かせながら、粉と水を分散させようとしている時でした。


突然、会長曰く、
「湿式粉砕って、知ってるか?」
と問われました。
 私の内語
   「きた ~~~~!!!」
    「湿式??」「粉砕??」
    「工学部卒ではないし、分かりません。」
 と驚きの声。
私の外語
  「いえ、知りません。」
  「湿式粉砕ってなんですか?」
会長曰く、
  「調べてみてよ。」
  「急がないので。」


今朝は、工学系の質問を貰い、また頭の中は右往左往です。
この質問が、その後のそばに関する勉強の始まりでした。まんまと、会長の術中にはまってしまったと、今になって思うわけです。私の中で、決して忘れることは無いだろう、「湿式粉砕」です。

 「湿式粉砕」というお題を頂戴し、まずはネットで調べました。湿式粉砕自体は、食品を扱う領域で良く聞く言葉のようで、粉をより細かくする方法の一つでした。玄米からGABAを造る方法や、玄米ミルクを作る際に、個体を最大限細かく粉砕する方法で、固形物を粉に磨り潰す工程で、乾燥状態ではなく、湿気があることで粉砕しやすくし、より細かく粉砕できるという手法です。
そばとの関連は、石臼でのそば粉造りに関わります。石臼によるそば粉の粉砕が湿式粉砕研究の基になっています。石臼挽きを応用して、より細かい物質へ粉砕するために湿式での粉砕が考えられたということです。具体例として筑波大学では、「改良型電動石臼を用いた湿式粉砕装置」が作られたとの報告がありました(2014 北村豊)。

うどん打ちの手順で、個体に液体を用いて混ぜるという手順を応用して、コンクリートミキサーを開発したのが、前田又兵衛という方です(1999 前田又兵衛他)。コンクリートミキサーは、以前は工事現場で良く見かけた、グルグル回る部分を有するトラックです。最近はコンクリートミキサー車が工事現場に現れ、コンクリートを流し込むという作業は少なくなりました。コンクリートの成形は、現場ではなく別の場所で行い、出来上がったものを現場に持ち込むためだと思います。コンクリートミキサーは日本人の開発したものだったのです。その基になったのは、うどんを打つ際の水と粉とを均一に混合する方法を、コンクリートの混合作業に応用したものでした。色々な個体を混ぜるために、液体を用いて、何でも均一に混ぜてしまう方法です。

そばの水回しは、そばの粉と水を均一に混ぜる作業です。これは、うどん打ちで小麦粉と水を混ぜ合わせる工程と同一です。そば粉と水を均一に混ぜることが、その後の作業に影響し、蕎麦のでき、最終的には蕎麦の味にまで影響します。そば打ちで、最も重要な作業は、水回しだというご意見の方が居られます(1999 大西利光他)。固体であるそば粉を、液体である水に均一に混ぜ合わせるには、どんな方法が良いのかということを考える際の理論として、湿式粉砕という考え方が重要になります。これは、うどん打ちからコンクリートミキサーが開発された経路と全く逆の経緯を考えるということです。そば粉と水をどのように加えて、混ぜるとより均一なそば粉の塊に成形できるかということを考えるために、湿式粉砕という方法を検討してみると言うことになります。

均一にそば粉と水を混ぜ合わせるには、コンクリートミキサーのように均一にかき混ぜるということです。均一にかき混ぜるには、混ざっていない部分をなくすと言うことに他なりません。そば粉のひと粒一粒が均一に動くように混ぜ合わせることが、必要条件であるという結論に至ります。

そのように理解できた途端に、先輩諸氏やWebでの名人による水回しの際の手の動きが理解できるようになりました。同じ水回しでも、最初に加水した際の指の立て方と手の動きと、2回目の加水後の手の使い方は異なることが分かってきました。

そばを打つという作業は、結構科学的に理解していくことができるのだ、と思った瞬間でした。この事件が私に、そば打ちの手順や技法には、理由があり、その理由は科学的に論じられそうだというところが面白いと感じさせました。会長の問いは、いつも突然で面喰いますが、面白く、何かを考えさせて下さることが多いようです。

そばを打つということの、それぞれの作業の意味合いを考える時、しっかりと裏付けとなる理論が存在するのではないかと思います。そのような視点でそば打ちを考えることは、大変興味深いと考えています。再現性のある言葉で、表現できるようになると、一層面白くなると思います。「そばとわたし」は、そば打ちを科学するという視点で捉えて記述していければと思っていますが、私の理解の範囲ですので、限界がありそうです。

 さて、湿式粉砕の問いを受けて、この日もそば打ちを会長のペースで終了しました。札幌新川そばの会でのそば打ちで、「2回目以降四つだしをしたことがないので、大丈夫なのかな。」と少し不安に成りだしました。

この日の私が打った生粉打ち蕎麦も、私には美味しかった・・・です。

(参考文献)
2014 北村豊 マイクロウエットミリングによる機能性食品の開発〈改良型電動石臼を用いた湿式粉砕装置〉 筑波大学生命環境系 (2016116日確認  http://shingi.jst.go.jp/abst/p/14/1419/tsukuba03.pdf
1999 前田又兵衛他 うどん練りの発想による連続練りミキサの開発 セメントコンクリート  628, 20-27, 1999-06-10  セメント協会
1999     大西利光他         そば打ちの美学 川辺書林