2016年1月10日 はやく やわらかく (そば打ち語録)
そば打ちを習い始めて、2回目の札幌新川そばの会への参加の際でした。会長から、直接ご教授いただきました。
はじめに、会長曰く、
「そば打ちで重要なことは、そばにストレスをかけないこと。」
「そのためには、時間をかけないことと、無駄な力をかけないこと。」
はじめに、会長曰く、
「そば打ちで重要なことは、そばにストレスをかけないこと。」
「そのためには、時間をかけないことと、無駄な力をかけないこと。」
私は、心の中で、「早く打つのが重要なんだ。あとは、力をかけずにできればよいのか?」と、言われたことを、言葉として理解をしましたが、具体的に何をどうすれば良いのかは、全く分からない状況でした。それもそうです、札幌新川そばの会に来て、まだ2回目です。前回の初訪問時に、K氏より2回ほど、そばを打つ手順を教えていただきました。今日は、前回教えていただいた手順通りに、初回訪問時に写真で撮った「江戸そば打ち手順のポスター」の通りに打ってみるということに集中していました。前回のそば打ちで教えていただいたことを思い出し、前の晩にはWebで名人のそば打ちのビデオを確認し、今日を迎えています。
手順よりも、そもそもそば打ちに重要なことは、「○×」と言われても、頭に入りませんでした。「○×」が、「ストレスを与えずに」ですので、余計に頭の中がボーとしています。早くと言われても、手順を思い出しながらなので、パッパとは行きそうにないし、力を入れるなと言われても、前回、こねたりのしたりする時には、ある程度力が必要であったように記憶しています。「どうしたらよいのだろうか?」と思案していると、
ふたたび、会長曰く、
「二八ではないので、小麦粉が入っていないから力は要らない。
力を加えると麺にストレスがかかり、美味しくなくなる。」
力を加えると麺にストレスがかかり、美味しくなくなる。」
と、追い打ちをかけて、ますます私を混乱の渦に巻き込みました。
小麦粉が入ると、なぜ力が居るのか?力が加わると、なぜ美味しくなくなるのか?と、私の頭の中は疑問だらけです。この疑問は、1年半たった現在も、完全に解決しておらず、継続した課題として私に纏わりついています。
本日只今の時点では、次のような理解の範囲です。「そばにストレスをかけずに打つことが、重要なことである。」という指摘は、確かだということです。しかし、具体的にこれを成し遂げるために必要な技術は、明らかではなく、ましてや身についてなどいません。では、現時点での理解レベルで、その内容を明らかにしてみます。
You Tubeには沢山の名人の方々のそば打ちの動画が配信されています。これらを、ストレスをかけずに早くという視点で見ていると、皆さんの動きに無駄が無いのが良く分かります。水回し、こね、のし、切りと、一つひとつのやり方は、名人それぞれで多少異なりますが、動作に無駄が無いこととが良く分かります。昨年(2015年)の幌加内のソバ打ち名人戦を見学に行きました。出場された皆さんの動きに、無駄を感じませんでした。稀に、おかしな動きをされる方が居ると、それが目立つと言う具合でした。早くというのは、そばに水を加えて麺体にするまで、より時間がかからなければ、乾きも少ないし、加える水は少なくて済むし、しっとりとした蕎麦が出来上がるので、蕎麦が美味しくなるのだと理解しています。
もう一方の、力を入れずについてです。そばを打つ過程を改めて簡単に考えてみると、粉である個体を水である液体に分散させ、液体上に分散する個体の粒子分布を均一化します。次に、この紛体に圧力をかけて形成するという作業です。形成する際には、当然力が加わるわけで、力を加えることは、粉と粉の間の距離を近づけることになります。液体中の紛体間の相互作用には、ファン・デル・ワールス力による引力と、粒子表面に作られる電気二重層における反発作用が働きます。引っ張り合う力と反発する力の両方が存在することになります。
この時、粉の1粒と別の粉粒間には距離があります。粒間の反発力と結合力は、その距離により変化します。2つの粒が少し離れた距離から近づいてくる時、一定の距離までは粒同士は反発します。この状態は、個体を浮遊する液体間に生じるイオン由来の反発の状態です。この状態を過ぎるほど距離が近づくと、急に粉粒同士は引合い結合します。その後一層距離が近づくと、また、強く反発するという性質を持ちます(2014内藤牧男他)。
例えば、こねあがったそばの塊に一気に強い力を加えて圧縮する、ローラーに掛けるような作業をすると、最初の反発状態を越えて、引力状態にまで近づけてしまうことになり、粉同士は強く結び付きます。粒子同士が強く結び付くので、その集合体である麺は硬くなります。これが、私が推察する、手打ちでない機械打ちの蕎麦が硬くなる理由だと思われます。あくまで推察ですので、検証はされていません。私の推察をそば打ちの現場での所作にて次のような資料がありますので、まんざら推察が間違ってはいないと思われます。
機械打ちをやっている老舗のそば屋さんでは、ローラーに掛ける前に、手で薄くして掛けるという作業をしており、重要な作業と捉えています(1995 堀田平七郎)。この作業をする理由は、一気に強い力を粒子にかけないように注意しているそうです。この老舗そば店では、店の重要な作業と捉えています。
手打ちの場合は、そこまで力は加わらないとしても、部分で見ると、相当の力が加わります。力の加わった部分は粉粒間の距離が一定の距離以上に近づき過ぎ、粉粒間は引力有意で結合するので硬い蕎麦になると思われます。部分単位でも強い力がかからないように考えて、こねてのせば、粒子間に余計は力が加わらないので、粒同士が一定の距離で反発しあったまま結合している状態が作れます。すると、麺が硬くなることはなく、柔らかく出来上がることになるのではないかと思います。そのようなそばは、無駄に硬い麺体ではなく、柔らかいがしっかりした麺になるのだと思います。
ただし、どうしたらそんなそばになるのかは、暗中模索です。
つなぎを加えた場合は、ここで示した液体中の個体に関する作用に加えて、粘性が加わります。ここでは、触れません。
「はやく やわらかく」は、そば打ち2日目で教えていただいたことですが、その後も色々な表現や場面で出くわします。本当に重要な内容で、私は、究極の美味しい生粉打ち蕎麦を打つ方法を示していると考えています。
「そばとわたし」では、これに関連するワードが、これからも何度か出てくると思います。その際に、また何度でも触れていきます。
さて、頭の中が混乱したまま、第2回目のそば打ちを開始しました。会長に言われるままに、会長のロボットとなった私のチャレンジ開始です。何しろ、思考停止状態ですので。
500gを2回に分けて打ちました。四つ出しせずに、のしながら台形ともいえない複雑な形、3歳児に絵を描かせるとこんな形を書くかなというような形に成形されたそばが目の前にあります。最終的には、蕎麦にはなりました。
はたしてこの蕎麦が硬いのか柔らかいのかは全く意識していませんでした。でも、自分で打った蕎麦は、食べてみたら美味しかった。
(参考文献)
2014 内藤牧男他 粉体の科学 日刊工業新聞社
1995 堀田平七郎 江戸そば一筋 並木薮蕎麦そば遺文 柴田書店
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