札幌そば研究センター

2017年12月30日土曜日

(記録)つゆ造り(11) 年越しそば用甘つゆ(かけ汁)造り

2017年の大晦日を前に、年越しそば用のかけ汁(甘汁)つくりです。

今年も、札幌市宮の森の昆布卸店、佐吉や昆布から真昆布の料亭用の代物を調達。同時に、お正月のお吸い物用の利尻昆布(平成12年産)の17年物の2等品も調達です。佐吉さんの昆布は、さすがに専門店だけあり、同じ昆布でも全く香りと味が異なります。良い昆布を提供されます。一般の方にはあまり知られていませんが勿体ないことです。道内外の専門店への卸が主で一般小売りはこの店だけなのであまり知られていなくても仕方ないのかもしれません。同店店主は大変話し好きで、昆布のことは本当によくご存じです。最初に訪問した際には、2時間近く話し込んでしまいました。色々と教えていただけるので、大変ありがたい先生です。

今年の甘汁用のだしは、京都の菊乃井の一番だしのひきかたを真似ることにしました。京都菊乃井と瓢亭や築地田村のだしのひきかたの違いは、鮪節を用いるか否かです。菊乃井はあくまで鰹本枯節血合い抜きにこだわりシンプルなだし。瓢亭や田村は鰹に鮪節も使用して一番だしをひいている。今年は、シンプルな旨味に焦点をあてることにして、菊乃井のだしのひきかたでやってみようと思います。

昆布は1時間かけてとります。また、鰹節は本枯節の雄節のうす削りを用いてひきます。残念ながら、札幌では、大熊商店が鰹節の卸さんですが、雄節のうす削りは手に入りません。雄節と雌節を分けて削らないそうです。雄節と雌節の混合節を用いるので、少し血合いが入るため雑味が出そうですがやむを得ないところです。今年は、雄節+雌節でやってみます。築地で雄節の薄削りをゲットしてこないと北海道では入手が難しいのかもしれません。

甘汁はだしにかえしを7%加え、酒とみりんで調整することにします。甘汁にかえしを用いるのは、並木藪蕎麦、高橋さんの翁等です。長野の大西さんはかえしを用いていません。瓢亭の椀物の場合は、だしに塩、酒、醤油を用いて味付けします。椀物であればこれが良いと思われますが、そば汁には味が薄すぎるのと甘みが足りないと感じます。そこで、かえしを使用してみます。ただし、通常より30%抑えて、その分を酒、みりんで調整するという戦術です。だしで食すそばを模索することにします。

今年の大晦日は、この汁と十割そばを数軒にお配りし評価いただこうと思います。



2017年12月24日日曜日

そば紀行(29) 鹿落堂(2回目)仙台市

先日の訪問に続き、鹿落堂に再訪しました。
もう一度そばの状況を確認するためです。
前回訪問時に感じたそばの状況は、超微粉のそばに粗挽き粉を加えたような配合を、石臼引きで作り上げた十割そばという印象でした。「この捉え方が正しいのか?」をもう一度そばから感じてみるためです。

今回も、お昼少しすぎたころに伺いました。前回同様に2階の窓下の広瀬川を見下ろせる席です。吹き抜けなので、階下の受付や1階の席が見え、その上に広瀬川が見えるような設計です。仙台市内を流れる広瀬川は、蛇行が多い川ですが、それが良く分かります。

今回は、そばそのものをいただきたかったのでせいろそばにしようかと思いましたが、メニューの別のところに、期間限定で「鴨せいろ(合鴨です)」という記載を見つけました。鴨は抜きでいただくことにしてそばは辛汁でと思い、辛汁をつけていただき鴨せいろをお願いしました。

鴨は低温調理して、別盛で提供されました。温かい汁に鴨を入れて少し温めてそばをつけていただくという趣向です。私は鴨は抜きでいただきました。鴨は低温調理されているので肉質は柔らかくかつ油は落ちてますので食べやすい鴨に仕上がってます。
レストランでの最近の肉調理方法として、低温調理が多くなってきました。これも、科学的なアプローチを肉料理に導入すると、当然のように低温調理が肉本来の甘みや旨みを引き出す方法だとなるわけです。たんぱく質を壊すほどの熱を加えると肉本来の甘みや旨みが消えます。これを解消するには、たんぱく質が変性しない温度で調理するとなるのです。これは、大変良い方向だと、個人的には感じています。同じものでも、美味しく食す方法が増えたということは良いことです。


そばです。やはり、この透明感と歯ごたえは微粉がもたらすものです。そこに、粗びきの粉が散りばめられています。このそば粉を配合しないで石臼引きで製粉する方法を試行錯誤で求められたのだろうなと思い至ります。やはり、面白くて美味しいそばです。


前回は、そばに目が行き汁には一切触れませんでした。辛汁は、癖と主張が少ない食べやすい辛汁です。甘すぎず、辛すぎず、だしが主張し過ぎることもないです。確かめてはいませんが、汁には透明感があるので淡口醤油を使用されているのではないかと思います。バランスが良い辛汁なので、たいへん食べやすい汁に仕上がっています。個人的には、「少し尖ったところがあっても、このそばには合うかもしれないな?」とも思いました。

街に近いところにある美味しいお蕎麦屋さんなので、これはありがたいです。また、伺います。




2017年12月18日月曜日

そば食研究(1) Olive oil, Salt,  White soy sauce

そば打ち記録(71)(72)で記載した、丸抜きを石臼を手で回して挽いた超粗挽きそばに、これまでの食し方とは異なる方法があるのではないかと考え始めました。

最初に超粗挽きそばを打って食べた際に、そば自体の主張が強いのでそれを活かすには、もっとシンプルでそばの味の邪魔をしない方法で食べるのが良いのではないかと考え始めたのです。辛汁に付けて食すと、汁の味が強いので、どんなそばでも喉を通った後に残るのは、そば汁の味覚です。

よって、あまり美味しく無いそば(語弊があるかもしれませんが)でも、そば汁が良ければそれなりに感じます。ほんの少し付けて食べても汁の味が残るので、そばを汁にドバッと付けて食べると、全てそば汁の味しか感じません。超粗挽きそばを活かすには、辛汁を用いないほうが良いのではないかと感じた次第です。

ドバッとそば汁に付けて食べる食し方を否定しません。そば汁に付けないと食べられないそばもたくさんありますし、そばよりそば汁を楽しむという人がいても、それを楽しんでいるのであれば良いと思います。そもそも、食は個人の感じ方です。好みや習慣で個々が感じる美味しいが、その方には美味しいのです。多くの方がその味を美味しいという場合は、より多くの方が好むので、その味が社会のコミュニティーで美味しいとなります。しかし、少数派の方が好む味はその方にとってはこの上なく美味しいのです。美味しいを求めて、自身以外の多くの方からも賛同されると仲間意識ができ、そのうちコミュニティーができ、輪が広がります。この弱いつながりを意思を持って繋ぐための理論は既に構築されています。アクターネットワークという理論です。食を扱うMarketing担当者は、SNSのこの時代には益々知っておいた方が良い基礎理論です。

話を戻しましょう。

先週、山形県の鶴岡市に伺いました。鶴岡市は山形県の庄内地方の町で、食文化を発信している街です。その中心人物の一人が、イタリアンレストランのアルケッチャーノ一期匠の別ブログ;一期匠 Many JPN参照ください)のシェフ奥田さんです。彼がまた動き、鶴岡駅前に「ユネスコ食文化創造都市・鶴岡」の情報発信拠点{FOODEVER」ができました。ここには、庄内地区の、日本の、世界の食の一部が紹介されています。その中に、Oil、Salt、Soy-Sauceの代表例が展示販売されています。

この一覧を眺めながら、超粗挽きそばに合いそうだなと思いたちました。普通のそばだとOlive-Oilに負けそうですが、超粗挽きそばの雑穀感には、Olive-Oilと塩が合うのではないかと思います。

ここのアンテナショップでOlive-OilのLaudemioを購入しました。このOlive-Oilはフラントイオ・モライオロ・レッチイノの3種のオリーブを配合して作るようです。試したことが無いので、何が良いのか分かりません。お店の方に伺ったのですが、正確な回答が得られませんでした。そこで、お店の方が実際に使用しているオリーブオイルを教えてもらい、それを購入した次第です。ここで、無理に購入しなくても良かったのですが、事の流れで思わず買ってしまいました。

塩も良いのではと思います。塩にも色々な物があります。岩塩、海水と大きく2種類で、それぞれ様々な製法や工夫がなされています。この中でFeとCaを多く含んだ6億年前の海の化石でできている岩塩(Pahar Rock Salt)を購入しました。また、キプロスの海塩を燻製した塩(Fiocchi di Sale Affumicato)と、同じ塩にミントを加えた塩(Fiocchi di Sale Menta )も購入しました。もう一品は塩ではなく白醤油(ヤマシン, 愛媛県)です。

その他に、BALSAMO DIVINOというバルサミコ酢で、モデナ産のブドウのみで造り6年熟成のものです。最後に、あみ醤油は、庄内産のアミエビと塩でつけられた魚醤です。
何かがヒントになりそうかなと思います。

実はこの後に、前述の鶴岡のイタリアンレストランのアルケチャーノ(奥田シェフの店)に伺うことになっており、そこで、専門家の意見を聞いてからにしようと思ったので、Olive-Oilは取り敢えず1品のみの購入にしました。

アルケッチャーノで色々とOlive-Oilについて教えてもらいました。緑色の野菜に合うもの、黄色い野菜に合うものと使い分けをしているそうです。先ほど私が購入したLaudemioは、黄色系の野菜に合いそうです。

色々とお話しし、このレストランで用いているOlive-Oilを教えてもらい、最終的にこのレストランで使用している高価ですが美味しい2種類のOlive-Oilを分けていただくことにしました。
一つは、「Kiyoe」です。これは、緑色の野菜サラダに用いるより、ほかの料理に用いる場合が多いそうです。アルケッチャーノでは、魚料理や黄色の野菜に使用しているそうです。

Kiyoe HPより引用
  • オリーブオイルは大きく3つに分けられます。オリーブ果実を搾っただけのオリーブオイル(エキストラバージンオリーブオイルやバージンオリーブオイル)と精製したオリーブオイル(ピュアオリーブオイル)、そしてオリーブの搾った残りかすを溶剤でさらに精製したオリーブオイル(ポマースオリーブオイル)です。
  • オリーブオイルは果肉に含まれる油脂なので、これらのピュアとポーマスオリーブオイルは、弊社ではお勧めしておりません。
  • エキストラバージンオリーブオイルですら品質差がある中で、キヨエはシェフ達が納得いく品質をノンフィルター製法&トランス脂肪酸ゼロで作り続けています。
  • オリーブ木にはたくさんの品種があり、昔から地域で愛され続けるオリーブオイルの品種もあれば、遺伝子組み換えされたものもあります。オリーブ木の種類は歴史が深いので、その数は千種類以上とも言われますが、定かではありません。
  • キヨエのオリーブオイルは、コロネイキ種のオリーブ木を使用しています。ギリシャ地域の昔ながらの在来種で、キヨエのシンプル製法でさらに美味しく仕上げました。

もう一品は、緑色の野菜サラダ等、Olive-Oilを感じてほしい時によく使われるMANZELLAのBiancolillaです。イタリア・シチリア島で、栽培法と品質が厳しく管理された有機栽培のオリーブを手摘みで収穫し搾油されています。新鮮なシトラスのようなすっきりとした香りと、苦味の少ないまろやかな味わいが特徴とのことです。

以下引用
  • スペインで前衛的なオリーブ栽培をする名門オリーブ農園カサス・デ・ウアルドから、最高のバランスとハーモニーを追求したエクストラヴァージンオリーブオイル。
  • エクストラヴァージンオリーブオイル 酸度 0.1
  • 酸度はオリーブオイルの命とも言える鮮度を表す数値。0.1という数値は市場最良です。
  • オレイン酸含有量 77.29% ポリフェノール値 637.2 p.p.m.
  • フレッシュミントやハーブの爽やかさを感じさせ、柔らかなバナナの甘さも香る極めてフルーティーなオイル。スパイシーさもあり、アーティーチョークやグリーントマトの心地よいフレッシュな味わいが楽しめる。オレイン酸もポリフェノールの含有量も高く、日常生活を健やかに過ごすために理想的と言えるオリーブオイル。高い抗酸化作用が望めます。
アルケッチャーノで分けていただいた2つのOlive-Oilと、塩2種類(海水塩燻製と岩塩)+白醤油で超粗挽きそばを試してみました。
Olive-Oilは、Biancolillaの方がOlive-Oil自体を感じます。KiyoeはOlive-Oilをあまり感じさせません。どちらもそばの雑味を弱めるが、そばの邪魔をしません。これは面白いです。
塩の燻製は燻製の美味しさがそばに合います。岩塩はあっさりですがそばが立ちます。白醤油は数滴で塩分だけでなく旨みがあり、そばに合います。
いずれも美味しいと思います。どれが最も良いという結論には至りませんでした。また、Olive-Oilと塩に何かを食えても良いかもしれません。この先の研究の楽しみが増えました。

用いたOlive-Oil2種類
左;燻製塩 中;岩塩 右;白醤油
2×3で6種にで比較検討

2017年12月17日日曜日

そば打ち記録(72)石臼手挽自家製粉の超々粗挽き粉で生粉打ち(2回目)

石臼を左手で回して出てくるそば粉の香りは何ともいえません。製粉作業がそばの香りを最も感じられる時であることを石臼回し2回目の今回に感じました。
前回は、石臼をどこにおいて、粉をどんなふうに集めたらよいのとか、丸抜きをどの臭いの速度で入れればよいのか等考えながらでしたので、そば粉の香りを感じなかったのかもしれません。

淡い緑色の丸抜きを石臼にかけると、粉がジワーと湧いてきます。湧いてくるという表現が合いそうです。今回は、1回挽いた段階で20メッシュの篩にかけて、20メッシュを通らない粒を再度石臼で2度挽きしました。すると、歩留まり100%でした。20メッシュですので、粉の部分と、小さな粒の部分に分けられるような粉になりました。

この粉で生粉打ちです。
そば粉が630gに加水315mlを一気に加水して1分弱で水回し終了。そのままくくり、二つのそば粉の塊にしました。これを一つずつ丸くのして、2枚つくり、重ねて折ってそれを切ります。
茹でても切れません。そば切りです。

水回し1分弱でそばが打てるのです。江戸打ちが7分前後かけている意味がよく分からなくなってきてます。無駄ではないかと。
他のブログにも記載しましたが、論文では3分以内で加水作業は終わっているという報告があります。なぜ、あんなに長く、かつ、粒状になるまでやっているのでしょうか??
そちらは、段位試験用として、やらないといけないのかもしれません??

このそばは、これまでのそばとは別物です。
味、香り、食感、のど越し、舌触り等々、まったく違います。同じ量のそばを食べても、食べた感覚が無いのが「もりそば」です。おなかがいっぱいという感覚を得るには、それ相応のそばを食べることになります。しかし、このそばは、食べたなという感覚を与えます。食べているときに感じる穀物の感触が、そのように感じさせるのだと思います。

雑穀や玄米を好む方が増えてきています。まさに、ソバという穀物をそば切り(そばの麵)にして食す方法です。そばを雑穀として食す文化は、ロシア、ヨーロッパ、中国東部や山間部にあります。国により少し呼び名は変わります。その代表として、ソバのカーシャーという料理がロシアにあります。カーシャというのは、粥のことです。ソバ粥ということです。カーシャ料理は、ソバが有名ですが、他には米、黍、小麦のカーシャなどがあります。

国内では、山形の庄内地域にそばコメというものがあります。これは、そばの丸抜きをそのまま炊くので、コメの代わりにそばのコメという料理です。
その他に、一度ソバをそば粉にして、お湯で溶く「そばがき」がありますね。これは、日本の農村部でそば切り以前の食べ方として普及していた食しかたです。

そばの味や香りが知りたいなら、そばがきが一番良い食し方だと言われてきました。その通りであります。
このそばがきと今日のそばを比較してみます。

  • 香り;そばがき>超粗 
  • そばの味;そばがき=超粗 
  • そばの雑穀感;そばがき<超粗 

今回の超粗挽きのばは、雑穀が苦手の方には向かないそばです。また、そばを啜り、喉越しだけを楽しみたい方にも向かないと思われます。
そばを感じたい方、雑穀としてのそばを求める方、こよなくソバを愛する方にはお勧めです。また、玄米古代米や雑穀が好きな方には一度お勧めしたい物です。

二八そばと生粉打ちそばには、大きな違いがあります。生粉打ちそばと超粗そばには、二八と生粉打ちそばの違いの数十倍もの違いがあります。違いというより、まったく別の食べ物のように思えます。

そばを食べた!! という感触です。

丸抜きを少しずつ加えて回します
1回挽いて20メッシュ篩
左は篩を通った粉
右は残った粉
もう一度挽いて全て使用
歩留まり100%
切り終えたそば




その後に、2回ほど1.5kg生粉打ちで練習をしました。その際に名人にご教授いただいた内容で、忘れてはいけないことです。
1.丸のしの初期:左右の手はできるだけ広げた方が、てこの原理が使えるのでのし速度が速い。
2.丸のしは、手前から真ん中下までを前にのす。これで、麵体が前に滑りながら伸びていくし、のびるので麵体が浮くので回しやすい
3.麵体を動かす際に、ゆがみを補正できる。
4.丸のしは手前→真ん中前まで→麺体の端を通って戻るという手順。戻りは力を入れない。戻る時に、厚みの違いを感じる。
5.四つだし;真ん中を伸ばす(出しすぎない)→外から内に手を置く(力不要)(真ん中には触れない)
6.「回しのし」の力加減の感覚は、遠いところに手を伸ばして麺棒を回している感覚でよい。その感覚で麺棒を回すと、自然に麵体が伸びチジミして伸びていく。圧をかけたいときは手前仕事にする。手前だと手が体に近い分体重がかかるので自然と圧がかる。手で圧をかけない。
7.のしは、形を整えるのを最優先。
8.角は、前から、脇から調整すると整う。
9.真ん中のたるみ解消は、山を作ることで解消する。
と、たくさん抱えている課題の回答が得られました。感謝、感謝。