札幌そば研究センター

2015年4月4日土曜日

蕎麦手帳

【書評】 蕎麦手帳(to Amazon)
著者:太野 祺郎 2010 東京書籍

【第1部 「蕎麦を楽しむ」】
歴史、植物、栽培、そば切りを作ること、そばの脇役、そばの品書、文化と続く。これらは、他の書物を基に書かれているが、
簡潔にまとまっており、概要をおさえるには十分な内容である。より詳細な情報をお求めの諸氏には、それぞれの分野でより専門的な書籍があるので、そちらを参考にされると良いと思う。

【第2部「全国の蕎麦」】
著者の主な論点であろう。北海道から九州まで、日本全国のそばの食の仕方、文化とそばの特徴を概観し、それに伴う全国各地の蕎麦のお店を紹介されている。
特筆すべきは、各地の名物蕎麦について書かれた本は他にもあるが、カラー写真つきというのが本書の良いところであると思われる。この本にたどり着くまでは、各地の蕎麦を紹介されても、イメージはできるが、実際にどんな色や形をしているのかが分からなかった。そのストレスを読者に与えないという点で優れている。●●蕎麦と言われ、Webで検索しないと、どんなものか分からないという書籍の欠点を補ったわけであります。書籍とNetからの情報を上手に使い分ける諸氏にとっては、それほどの価値を見出さないかもしれないが、面倒くさがりの私にはありがたい表現方法です。

【ビジュアルの価値と体験の価値】
ビジュアルの価値は今更と思うかもしれませんが、やはり「百聞は一見に如かず:Seeing is believing」である。写真をカラーで見せられると分かりやすい。
私は、蕎麦に関しては、「千聞は一食に如かず:Eating is Believing on SOBA ; buckwheat noodles」ではと思っています。見てもわからないところが、食してみればよーーーーく分かります。皆さんも、食べてみてそれを味わうことで、私にとっては、「おいしい」「少し残念かな?」と感じるわけです。食は、聞いても分からないけど、見ても分からない、味わって初めて分かることが多いのではないでしょうか?
しかし、本書の著者のように日本国中を回って様々な蕎麦を味わうことはなかなかできないのが現状です。そんな我々に、本書は文字だけでなく、「せめて見てわかる範囲で理解して」という優しい気遣いのある、そ蕎麦屋の紹介本になっています。

【著者の経歴】
著者は、30年前から友人と「TCそばの会」というのを立ち上げて、全国の蕎麦を食された方であり、食した蕎麦の数は計り知れないのでしょう。本書以外にも、そば店についての著書は他にもあり、そこでも全国の蕎麦について紹介されているようです。

【そばの好み】
私は、蕎麦は食の一つなので、その評価は、個人の好みにより決められると考えます。
誰かがおいしいというと、大勢の人がそこに溜る。これは、吹き溜まりという意味合いを含むます。著名な方から、これがおいしいといわれて、試してみるとさほどでもない物も多い。もちろん、美味しいそばもある。このように様々に分かれる結果となる食の評価は、要するに、個々の好みの違いであるといわざるを得ないと思います。
(老舗の蕎麦屋は、この大衆の好みに合わせて精進してきたという話もあります。個々の好みの最大公約数を求めたということです。この記述については、別の本に著されているので、そこで触れたいと思います。)

【ブランディング】
人間社会の大きな意見を支配する群集心理は、孤立化を避けたいという防御反応を映し出しています。そうすると、誰か著名な方が美味しいと言うと、皆が美味しということになる。そして、そこに行列ができるという帰結をもたらします。この傾向は日本人に多いと言われるが、フランス人にだって見られます。有名なレストランは予約が取れない。日本では予約制でなく早く順番制を取る場合が多いので、行列のできるレストランになりますが、それは仕組みの違いであります。
こんな社会心理学を重宝に活用しているのが、マーケティング手法や、ブランディング戦略や、マスメディア戦略に見いだせます。ブランディングは、人間社会の心理を上手に活用して地位を築いて来ました。もちろん食の世界でも、著名人による食の紹介や斡旋等による宣伝効果は大きいのは知るところです。マスメディアで取り上げたとか、ミシュランの★をもらったなどです。これらの評価は、我々よりも確かな、それ相応の舌を持った権威のある方々による評価結果なので、大きなブランディングになります。よく知らない私たちには、これらの評価を一つの参考にすることになります。老舗そば店や、本書が力を入れて紹介するニューウェーブそば店の系列店等は、ブランディングされてきた、あるいは、ブランディングがongoingで進んでいるのでしょう。本書は、少なくともニューウェーブそば店のべランディングに一役買っているわけです。

【ブランドをどう評価するのか?】
しかし、最終的にランドの評価も、個々で別れます。私は、食は、「千聞は一食に如かず」と思います。個々の方のそれぞれの舌に合うものを食すのが一番なのでしょうね?
ただし、ブランドを確立することができるブランドは、一握りであり、相当努力の上になりったており、そのためにはブランドが提供するものと、顧客が求めたいものが一致しないといけません。

【そばを打つという行為に至った理由】
蕎麦が好きで、蕎麦を打つことになった私が、何を目指しているのかと自問自答すると、私自身にとって世界で一番美味しい蕎麦を提供することを目指したからであるという結論に至りました。そのために、色々な蕎麦を食してみることを否定していません。むしろ蕎麦にとどまらず蕎麦以外の食にも興味を持ち、それらの食の視点からも蕎麦を見つめてみたいと思っています。

【本書の著者は何を目指してきたのか】
本書の著者は、美味しいそばを、他者(多くのお店)からの提供に求めたのだと思います。その結果を記録し、読者に情報開示してくれた。これだけ食べ歩ば、その評価の精度は少しずつ向上していくと思われます。体験が向上し、その評価指標も向上し確立していくのだと思われます。
本書を読み、こんな蕎麦なら一度食べて、参考にしてみたいと思うものもいくつか見つかりました。感謝です。
本書は、単にこの店が美味しいという情報の提供では留まりません。蕎麦が生まれた文化的な背景、その店のポリシーにまで入り込んで記載されています。個々の店の紹介には、温度差があり、場合によっては、手抜きも見られますが、それは「他の書に沢山紹介されているのでそちらにお任せ」ということであると推察されます。

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